若手設計士のみなさんこんにちは。
前回に引き続いて、窓を活用したすてきな光の演出第二弾です。
視線は透けないけれど光は透ける、そんな「透光不透視」の魅力を備えた窓を、今回はたくさん紹介いたしましょう。
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紙障子の窓が柔らかく落ち着いた光をもたらす
下(写真1,2,3)のお住まいのダイニングルームは洋間ですが、伝統的な紙障子窓を設けています。洋間に障子を用いるデザインはすでにポピュラーな存在と言えますが、改めて見てみると、障子のもたらす柔らかい均質な光が部屋になんとも言えない優雅な落ち着きと静けさをもたらしています。

【写真1】

【写真2】

【写真3】
【写真1,2,3】覚王山の家 設計・武川正秀/武川建築設計事務所(写真・武川正秀)
外が見えないので、極端に言えば部屋は密室に近い状態です。けれども息苦しさはまったく感じさせません。さらに紙障子は光を拡散して室内を一様に照らし出すので、体感的な明るさは時として素通しのガラス窓以上と言えます。外からの光のもたらす恩恵がいかに大きなものであるかを実感します。
密集した住宅地にお住まいを計画する場合、窓の配置や大きさにはいつも悩みますよね。採光面積を確保しなければならないし、日当たりや風通しもほしいけれど、周囲からの視線がどうしても気になってしまう。
そんなときに障子を用いますと、外からの視線は遮りながらも明るさはしっかり確保できる。開閉可能だからいつでも風を通すことができる。実は障子窓は、高密度な都市型住宅にぴったりなしつらえなんですね。
建具を複数用いて異なった雰囲気を楽しむ
下(写真4,5,6)のお住まいでは、障子戸を開けると外側にはガラリ戸も設けられています。外のすてきなお庭を眺めつつ、強い日差しを柔らかく遮るすてきなしつらえです。このように複数の建具を重ねて設けることで、季節や天気、時間の変化を楽しめるすてきな住まい方ができるのです。

【写真4】

【写真5】

【写真6】
【写真4,5,6】清眺台の家2 設計・本田恭平/mononoma(写真・山内紀人)
下(写真7,8,9)のお住まいでも障子戸、簾(すだれ)戸、ガラス戸を三重に設けています。落ち着いた柔らかな明るさがほしいときには障子戸を、庭に落ちる日だまりを眺めたいときには簾戸を、そして外の庭を一体に感じたいときにはガラス戸を選ぶことで、外部とのさまざまなつながり方を楽しむことができます。

【写真7】

【写真8】

【写真9】
【写真7,8,9】戸塚の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
アルミサッシュを用いて透光不透視を楽しむ
上に紹介した2つの窓は手作りの繊細なデザインですが、既製品のアルミサッシュを用いるのでも十分、美しい透光不透視を演出することが可能です。
下の洗面室には掃き出しの障子戸が設けられていますが、外側には既製品のアルミ製勝手口ドアが設けられています。勝手口ドアをむき出しで設けるとどうしても生活感が強く出過ぎてしまいがちですが、このように手前に障子戸を設けることで、光を導きつつドアを隠すという見事な演出ができました。

【写真10】さがみ野の家 設計・礒健介/礒建築設計事務所(写真・西川公朗)
下(写真11,12)のお住まいでもアルミサッシュを効果的に用いたすばらしい演出を観ることができます。
このお住まいはマンションのフルリノベーションですが、既存のアルミサッシュ引き違い窓の内側をあえていったん塞ぎ、改めて二連の小窓を設けることで大変美しい光空間を演出しています。写真に見えている透光不透視の面は既存サッシュの型ガラスです。
リノベーションでなく新築のお住まいでも十分活用できそうな見事なデザインですね。
窓廻りをすてきに演出したい。けれども予算の制約は無視できない。そんなときでも既製品をうまく転用することで、リーズナブルですてきな窓を作り出すことは十分可能なのです。

【写真11,12】西大島の家 設計・礒健介/礒建築設計事務所(写真・武川正秀)
障子戸以外でも透光不透視は作れます
また上の例でもおわかりのように、透光不透視の窓は障子戸以外の素材でも簡単に作り出すことができます。
下の和室の小窓では、透明ガラスの内側にハニカムスクリーンを設けています。

【写真13】糸島の家 設計・礒健介/礒建築設計事務所(写真・武川正秀)
下(写真14,15)のお住まいでもハニカムスクリーンを効果的に用いています。ダイニングルームの幅いっぱいに細長い窓を設け、内側にハニカムスクリーンを設けています。勾配天井にもよくマッチした見事な透光不透視空間ですね!

【写真14】

【写真15】
【写真14,15】戸塚の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
ちなみにこの窓は既製品のアルミサッシュを3つ並べたものです。下の外観写真のように中央にFIX窓、左右に横すべり出し窓を設けています。しかし室内からだと一体の光る面に見えてしまう、意外性に満ちたすてきな演出です。

【写真16】戸塚の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
室内にもどんどん透光不透視を使おう
玄関を入ると居間への入り口が型ガラス戸になっていて、奥から灯りや人の声がもれてきて家庭の温かさを改めて感じる。そんな瞬間がよくありますよね。型ガラスなので奥は直接見えないけれど、人の気配は十分に伝わってくる。透光不透視の窓や戸にはそんなつながりをもたらす魅力があります。
下(写真17,18,19)のお住まいは玄関と居間との間に室内の窓を設けています。この窓は無双連子(むそうれんじ)という大変凝ったしつらえで、縦長の紙障子が横にスライドすることで両側の部屋を柔らかく仕切ったりつないだりすることができます。
玄関を入ってまず目に入る「勝負どころ」の建具。渾身の力を込めたデザインがお住まい全体を引き立たせています。

【写真17】

【写真18】

【写真19】
【写真17,18,19】無双障子のある家 設計・齋藤央/ユニティ設計事務所(写真・齋藤央)
魅力的な透光不透視の数々、いかがでしたでしょうか。
今回これを書きながら改めて実感したことがあります。それは、透光不透視の建具がもたらす光と同時に、奥を見せないゆえの「隠す」という役割のすばらしさです。
古くから日本家屋は「隠す」機能を美しく演出してきました。特に「町家」と呼ばれる都市型の住宅では、明るさや風を通しつつもプライバシーを確保するために障子や格子、すだれなどのしつらえを何重にも施していました。こうして、いったんは大きな窓で外とつなげつつも奥を柔らかく「隠す」という工夫をしてきたのです。
この考え方は現代の住宅でも十分に通用します。むしろ現代の住宅にこそふさわしいとすら言えます。
密集した住宅地ではプライバシーの確保は不可欠ですが、昼間からカーテンを閉め切って人がいるのかどうかもわからないほど閉じてしてしまうのも・・・どうなのでしょうね、少しさびしいですよね。
そんなとき、透光不透視素材を用いて室内を柔らかく隠す、けれども同時に気配を柔らかく外に伝えるという考え方は、人と人とのつながりを街の中に再び回復させる一つの糸口になるのではないでしょうか。
今回はそんなことをしみじみ実感したのです。
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