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若手設計士のみなさんこんにちは。
~境界を上手く作っている住まいは、他のどの部分を見ても良い住まいだ~
やおら格言のような言葉を書きましたが、これは別に有名な建築家の言葉ではなく、実は私自身が日ごろ強く感じていることなのです。どうしても書きたくなって冒頭に入れてしまいましたが、今回紹介する住まいにとてもマッチした言葉だと思います。
この「境界」とは敷地境界線のことです。道路境界線、そして隣地境界線のことですね。
現代の住宅ではプライバシーを守るために、境界はとかくブロック塀などで閉ざされてしまいがちです。そしてそんな住まいが住宅地に立ち並びますと、街路は拒絶されて孤立したような環境になってしまいます。
人々の住環境はできるだけ親しみやすくすてきな場所にしたい。そう考えると、境界を閉ざしてしまうのはなんとももったいないことですよね。
そこで今回は外環境の中でも特に境界線廻りのつくり方に着目して、住み手にも道行く人々にも、そしてお隣さんにも優しい住まいの作例を紹介してまいりましょう。
作例をたくさん紹介したいので、前後編の2回に分けてお話しいたします。
塀で囲わずオープンにしても大丈夫、
住まいはますます魅力的に見えてくれます
道路境界線側はどうしても塀やフェンスなどで仕切ってしまいがちですが、必ずしも仕切らなくても境界線から少しだけ住まいを奥まらせることで、ちょっとした外の場所を作り出すことができます。
よく「バッファー」という言葉が使われます。これは緩衝物や緩衝帯といった意味です。この外の場所はまさに住まいと道路とのバッファーになってくれるわけです。
下の住まいは道路側にフェンス類をまったく設けず、植栽を効果的に設けることで道路から住まいへの距離感を見事に演出しています。駐車スペースをも一体とした大変魅力的な外の場所です。


【写真1(上),2(下)】小平の家 設計・古谷野裕一/古谷野工務店 造園・蓑田真哉/zoen(写真・武川正秀)
下の2軒も同じ設計者による住まいです。いずれも道路からとても効果的に住まいの「引き」をとっています。
限りある敷地面積ではどうしても境界線パツパツに建て込みたくなるものですが、その気持ちをグッと抑えることで、すてきな外に包まれた住まいが作り出せます。

【写真3】赤塚の家 設計・古谷野裕一/古谷野工務店 造園・蓑田真哉/zoen (写真・西川公朗)

【写真4】武蔵小金井の家 設計・中島行雅/エータスデザインラボ+古谷野裕一/古谷野工務店 造園・蓑田真哉/zoen (写真・西川公朗)
これらの外部はいずれも小さな場所だけれども、住まいの独立性やプライバシーを保つには意外に十分なバッファーになってくれるものです。住まいと道路との間に物陰がなくなるため治安上安心ですし、何よりも道行く人々にとても優しいたたずまいになってくれます。
また下の住まいは角地に建っていますが、交差点に面した部分にカーポートを兼ねた広い前庭を設けています。この前庭は街角と住まいとの間にとても心地よい「間(ま)」を作り出してくれています。地面のデザインも見事ですね!
「健やかに送り出し優しく迎える場所になれば」という作者の言葉も、住み手に対する優しさに満ちた一言です。



【写真5(上),6(中),7(下)】町保の家 設計・前原香介/前原香介建築設計事務所(写真・園田賢史)
大窓で景色と明るさを取り込みプライバシーも確保、同時に街路にも優しくつくる
住まいが南側や東側の日当たりの良い方角で接道していますと、採光や風通しを得るためになんとか道路側にも大きな窓を設けたくなります。
そんなとき、日当たりと風を得つつもプライバシーをしっかり確保できるような工夫があったらどんなにすてきでしょう。
下の住まいでは見事な工夫がなされています。1,2階ともに大きな窓を道路側に設けていますが、道行く人々の視線がちょうど集中するあたりに密度の濃い樹木を植えています。
こうすることで外からの視線を巧みに遮り、さらに室内に緑の美しさと柔らかい反射光をもたらしています。それにこの木々は道行く人々にもとても優しい。一石二鳥三鳥の優れたデザインです!

【写真 8(左),9(右)】小平の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
また下の住まいは角地に建っていますが、交差点からの冬の日差しと街角の景色は大変魅力的なものです。そこで2階と3階に大きな窓を設け、さらにその外に小さなバルコニーと格子を設けています。
窓が少し奥まり、さらに格子がついているため、外から室内の様子はほとんど見えません。この小さなバルコニーと格子もまた大変優れたバッファーと言えます。さらに1階の玄関を境界線から奥まらせているのも、角の突出感を軽減する優れたデザインです。


【写真10(左上),11(右上),12(下)】北千束の家 設計・前原香介/前原香介建築設計事務所
玄関へのアプローチを工夫してすてきな「引き」をこしらえよう -その1-
限られた面積の敷地でも、住まいはできるだけ広く大きく、奥行き深くありたいものです。そんなとき、玄関へのアプローチの工夫は非常に大切。道路から玄関までの距離を少しでも長くとりたいですよね。
住まいに奥行きをもたらす。これもまたすてきな「引き」の演出の1つです。
玄関アプローチを工夫して見事な「引き」を演出した住まいを3軒ほど紹介いたしましょう。
下の写真は上の写真8と9で紹介した住まいです。この住まいは旗竿敷地に建っていて、前面道路からの「引き」は十二分にあります。そこで作者はこの距離を効果的に演出して、玄関へと至るプロセスをとてもドラマチックなものに仕上げました。
植栽をふんだんに使って奥を見え隠れさせつつ、小径を巧みに曲折させています。さらには小径のテクスチャーまでも変化させています。距離だけでなく玄関までの時間をも演出しているんですね。


【写真13,14】小平の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
【写真13(上),14(下)】小平の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
ところでこの「引き」の手法、実は日本の伝統的な建築独自のものなのです。安土桃山時代に完成された草庵の茶室では、茶室のにじり口へと至る露地庭をまさにこのように演出していました。小さな茶室に合わせて露地庭も小さく小さく作る。けれども門からにじり口への道のりはうんと迂回させる。そして大小の植栽をふんだんに用いて、奥の待合腰掛けや茶室を見え隠れさせる。こうした演出によって、茶会の客は日常の環境から非日常の茶室空間へと自然に誘われていきました。
日本の昔の建築は、現代の住宅にも十分応用できる素晴らしさをたくさん持っていたのです!
<次回に続く>
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