国立環境研究所と筑波大学の研究チームが11月4日に公表した、日本の将来における熱中症リスクに関する分析結果によると、熱中症リスクが高い「リスク高齢人口」の割合が2060~2080年代には国内総人口の約3割を占めると予想した。さらに、エアコン非保有世帯にエアコンや電気代を支給する場合に、年間約250億円の費用が必要になると予測。現存するクーリングシェルターを活用した場合も、自宅への対策費用の削減効果は限定的だと推計している。
消防庁の調査(2025年)によると、熱中症の約4割が住居内で発生。救急車で搬送された人のうち約6割は満65歳以上の高齢者だった。このためエアコンの適切な利用をはじめとする、居住空間における暑熱対策が重要であり、居住空間への対策を補うクーリングシェルターをどのように戦略的に配置・利用するかも課題となっている。

(青色が1980-2014年のWBGTの平均値)
同研究では、過去の日別の気象データ(気温、湿度、風速、日射量)と、国内の延べ842地点で蓄積された時間別の「WBGTデータ」(=暑さ指数)を、機械学習用のデータとして使用した。
大都市圏でWBGT高い傾向
2060~2080年代の8月におけるWBGTの全国分布を見ると、東京・名古屋・大阪・福岡などの大都市周辺や、南の地域でWBGTが高い傾向に。同じ都道府県や市区町村内でも、標高や都市化といった要因によりWBGTに大きな差が見られた。

図2 2060~2080年代の8月におけるWBGTの全国分布
2つの温室効果ガス排出シナリオ(SSP1-1.9/SSP5-8.5)と2つの時間帯(0時/12時)、5つの気候モデルの平均値
熱中症リスクについては、大都市圏を中心に全国での「リスク高齢人口」が3000~3230万人になると予測。国内総人口の約34%に達する見込みとなった。危険な暑熱環境にどれだけさらされるかを示す「潜在的累積ばく露」は48~100億人・時(※)となっている。
※人・時=リスク高齢人口(人)×高リスクな暑熱環境の継続時間(時)で計算
クーリングシェルター設置戦略に課題
熱中症対策費用とその効果に関する分析では、「リスク高齢人口」にエアコンと電気代を支給した場合に、その費用は年間246~266億円になると推計。現存するクーリングシェルター約7000件に「リスク高齢人口」が避難できると仮定した場合も、居住空間への対策費用は年間242~261億円必要となり、その差は1~2%程度だった。これらの結果から今後、クーリングシェルターの戦略的な配置・活用、およびエアコンよりも炭素排出の少ない対策を考える必要があるとしている。
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