若手設計士のみなさんこんにちは。
この連載記事では住まいの魅力についてさまざまな角度から考えてまいりましたが、その内容は主に屋内についてのものが中心でした。
そこで、今回から何回かにわたって「外」について考えてみたいと思います。
ここで言う「外」とは住まいの外観、庭を中心とする外部空間、そして何度か書いてきたことですが、住まいの内と外とをつなげる「半内部・半外部」などについてです。
住まいは外観や外部空間を豊かにすることで、さらに魅力が倍増します。
例えば外観をまったくイメージせずに室内の都合だけで窓を並べた住まいは、見ていてなんとなくバランスが悪いものです。あるいは、庭もアプローチもなにもない家がただポンッと敷地に建っている姿を想像してみてください。なんとも寂しく、一家の住みかとしての温かみを感じづらいですよね。
「外」には住まいの魅力を大きく左右する大切な要素がたくさん含まれているのです。
今回はまず、住まいの外観を中心に事例を紹介してまいりましょう。
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シンプルな外観には魅力もいっぱい
最近さまざまなウェブサイトで、一般の方向けに書かれた住まいづくりのコツを読んでみました。住まいの外観に関する記事も大変多く、住まいのすてきさに対する人々の意識が年々高まっていることを実感します。
ところが面白いことに気がつきました。書き手によって住まいの外観の価値観が大きく異なるのです。ある人は言います。「単純な形の家は平凡で見栄えがしないから、できるだけ屋根や形に変化を持たせ、外装材もいろいろ取り混ぜてデラックスな外観にしよう」。
またある人は真逆なことを主張します。「外観にやたら凹凸をつけたり外装材をペタペタと違えて用いるのは昔の流行。現代ではシンプルにスマートに都会的な外観が良い」。
さてこれは、いったいどちらの考え方が良いのでしょうね。
デザインというものは色や味と同じで、個々人の好みによって大きく異なります。したがって住まいの外観もあくまで住み手の一家の好みが決めることではあります。
しかしそれをふまえてもなお、私はどうしても言いたい。住まいの外観はシンプルなほうが良い。
なぜなのか?
住まいは複数の人たちが長い年月を暮らす場所です。当然たくさんの要望があることでしょう。家族全体の要望、個々の要望、さらにはペットの要望まで、それはもう大変な量なはずです。
いきおい住まいの作りも複雑な有様になってくる。放っておけばそれこそテーマパークのような外観になってしまいそうです。
だからこそ、外観は努めてシンプルにシンプルに整理つつ造形して行くべきです。もしかしたら結果的にはけっこう賑やかな外観になるかもしれない。けれどもそこには必ず積極的な統一感が下敷きになっているはずなのです。
シンプルさには整った美しさがある
ではシンプルな形の住まいとはどのような姿なのでしょう。私たちはふだん「家」「おうち」といった言葉からどのような姿を思い浮かべるでしょうか。
いちばんパッと思いつきそうなのは、切り妻屋根の四角い平面形の家ですよね。ある種日本人の住まいの原風景的な存在と言えるかもしれません。
下に紹介する2軒の住まいは、いずれもシンプルな切り妻屋根と四角い平面形をしています。
最初の住まいは外壁を杉板のスリット加工防護保持剤仕上げに揃えています。バルコニーの形や仕上げも全体とよく調和して、どこかノスタルジーを感じさせるたたずまいですね。

【写真1,2】厚木の家 設計・礒健介/礒建築設計事務所(写真・山内紀人)
下の住まいも切り妻屋根のシンプルなたたずまいですが、窓をすべて外壁の端部に設けて幅や高さを揃えています。こうした整った窓の並びはシンプルさにいっそうの統一感と美しさをもたらしてくれています。そしてこの窓は見事なコーナーウィンドウとして室内を明るく照らし出しています。


【写真3,4】雄総の家 設計・本田恭平/mononoma(写真・山内紀人)
要素を付け加えることで外観にアクセントを
また、シンプルな外観にはアクセント的な要素がよく似合います。下地となる形態がシンプルなので、さまざまなしつらえがよくなじみやすいという利点があるのです。
下の住まいでは前面道路に対して妻側でなく平側(けらばの側)を正面に向けています。そして軒をうんと深く出し、その下に囲われた半屋外のテラスを設けています。こうしたしつらえが外観への良きアクセントとなって、切り妻屋根の大屋根感を強調しています。


【写真5,6】清須の家 設計・本田恭平/mononoma(写真・山内紀人)
また下の住まいは杉板黒色保護塗料仕上げの外壁に切り妻屋根という、ある種重厚な趣の外観ですが、大きなボリュームを分節するように縦長の格子のスリット窓が設けられ、さらに部屋の一部が出窓のように突出して設けられています。こうした要素がアクセントになることで、重厚さに柔らかさと親しみやすさが見事に加味されています。


【写真7,8】古賀の家 設計・礒健介/礒建築設計事務所(写真・YASHIRO PHOTO OFFICE)
シンプルな外観と賑やかな内部の対比を楽しむ
外観はシンプルで寡黙な表情の住まいだけれども、中に入るとまるで別世界のように賑やかで楽しい。そんな住まいがあったら、きっと家に帰るのが毎回楽しみになってしまうでしょうね。
下の住まいは名前のとおり、スキップフロアやお伽の国のような階段室などを備えた、たいへん立体的で楽しい住まいです。



【写真9,10,11】段々の家 設計・森田葵/あおいも
ところがその外観はごらんのとおり、いたってシンプルで控えめな切り妻の四角い住まいです。
切り妻屋根の箱という形態は「おうち」の原点のような寡黙な形であるだけに、中に入ったときの対比的な驚きや新鮮さなどは、ほかの形の外観ではなかなか得がたいものです。

【写真12】段々の家 設計・森田葵/あおいも
今回は住まいの外観を、主にシンプルさという視点から考えてまいりました。そしてシンプルさの象徴として「おうち」の原点である切り妻屋根の四角い住まいを紹介してまいりました。
たとえ単純な形であっても、そこにはシンプルさゆえの明快な美しさが必ず伴います。そしてその形はちょうど真っ白なカンバスのように、窓や軒などの要素で彩ると全体がさらに映えてくれるのです。
室内の賑やかさや楽しさも、シンプルなたたずまいで包まれることによって対比的にいっそう引き立つのです。
次回もまた住まいの外観を中心とした楽しい「外」をたくさん紹介していきますね。どうぞお楽しみに!
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