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若手設計士のみなさんこんにちは。
前回は内とつながるすてきな外を紹介しましたが、書きながら何度も感じたことがありました。それは、密集した住宅地で外の場所を確保できづらい住まいでは、どんな工夫が必要なのだろうかということです。
そこで今回は密集敷地に建つ住まいにスポットを当ててみましょう。
旗竿敷地にだって明るくてすてきな住まいは作れます
周囲が密集した敷地というと、真っ先に思いつくのが旗竿敷地です。最低限の幅でしか接道せず、さらに四周を隣家に囲まれているケースが大半です。庭はおろか、日差しや風を取り入れるのも大変な敷地ですよね。
けれども旗竿敷地に果敢に挑戦して、見事にすてきな住まいを作り出した例があるのです!
(1)住まいを丸ごと持ち上げてしまう
下の住まいは典型的な旗竿敷地に建っています。外観の写真を見ても、周囲がかなり建て込んでいますよね。接道長さも最低限です。

【写真1】高基礎の家 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
ところが内部の写真を見ますと、このような敷地に建っていることがまったく信じられないほどです。どの場所も明るくて広々としていて、景色まですてきです。驚きですよね。
4枚目(【写真4】)の写真はキッチンですが、天井を高くして高窓を設けていてとても明るい。またいちばん最後の写真(【写真5】)は1階の玄関廻りの吹き抜けですが、高い位置に大きな窓を設けているため、密集地の1階とは思えない明るさです。

【写真2-5】高基礎の家 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
このすてきさを得るために、この住まいではさまざまな工夫がなされています。下の写真のように、まず基礎を高く持ち上げた高床の構造にしています。

こうして最上階を隣家よりも高い位置に持ち上げ、下の写真のように思い切り大きな窓を設けているのです。そして吹き抜けをさまざまな場所に設けて、明るさを1階まで届けています。

(2)接道部は必ず解放されている、そこに着目しよう
下の住まいもまた旗竿敷地に建っています。この敷地も周囲が建て込んでいますが、悪条件を見事に克服しています。
唯一隣家がないのは接道部分。そこでここに思い切り大きな窓を集中して設け、内部に3層分の吹き抜けと階段を設けています。そしてすべての部屋がこの明るい吹き抜けに面して設けられています。
3枚目の写真(【写真11】)はリビング・ダイニングキッチンですが、吹き抜けの明るさをふんだんに取り込んだ快適な場所になっています。そして最上階には広々としたルーフテラスまで設けられています。この高さですと明るさも日当たりも文句なしですよね。



【写真9-12】桜花のいえ 設計・工藤健志/建築設計事務所RENGE(写真・工藤健志)
(3)頼れる景色や自然が少しでもあってくれたらこんなに心強い
下の住まいもまた旗竿敷地です。1枚目の写真(【写真13】)は道路から住まいを見たものですが、この写真には大きなヒントが写っています。
敷地の裏側に見事な木立があるんですね。他の側はすべて周囲が密集していますが、この木立に住まいの重心を思い切り寄せて設計されています。
その結果、3、4枚目(【写真15,16】)の写真をご覧になってください。密集した住宅地とはまったく思えない、まるで日本庭園のような深山幽谷の景色です。葉が生い茂っているので反射光で室内は柔らかい明るさに満たされています。
さらに最後の写真(【写真17】)のように、もっとも条件の悪い1階の部屋は床、壁、天井とも真っ白な素材で作られています。これなら反射光だけで十分な明るさを得ることができますよね。



【写真13-17】二人のための家 設計・森田葵/あおいも(写真・森田葵)
旗竿敷地は分譲住宅を建てて土地とセットで販売されることが多いですが、代替わりなどで新築に建て替えるといった需要は意外にあるものです。みなさんも旗竿敷地の住まいを手がける機会があるかもしれない。そんなときにこのコラムを思い出していただけたらうれしいです。
どんな敷地でも空にだけは必ず解放されている、これを忘れずにいよう
下の住まいも密集敷地に建っています。すぐそばには交通量の多い幹線道路が。騒音の問題も深刻そうですね。
そこでこの住まいは空に救いを求めました。屋上にガラス張りの塔屋を設けたのです。塔屋の下は吹き抜けになっていて、住まい全体に明るさと日差しがたくさん降り注ぎます。
どれほど悪条件の敷地でも、空にだけは必ず解放されています。周囲が閉ざされているなら空を思い切り信じて活路を開けばよい。この考えを徹底して推し進めた住まいです。
面白いものです。古くから日本の住まいや建築はすべて、まず屋根を架けて空と絶縁するところから室内を作っていました。雨や夏の日差しをまず防がねばならないからです。
ところが今日の密集地では、時としてこれを逆転させた発想がピタリと住まいを豊かにしてくれます。この住まいはまさにそうですよね。周囲の視線や騒音から住まいを守る一方で、唯一空のみに向けて住まいを解放しています。
住まいを丸ごと預けられるほど信頼できる存在があるってすばらしいことですよね。
でも私は思うのです。どんな敷地にも必ずそんな存在はあってくれるのだと。

【写真18-20】北沢の住宅 設計・織田遼平/織田建築設計室(写真・鳥居重宏)
密集地ではヒントを「思い切り」信頼しよう
今回は密集地に建つ住まいを4件紹介いたしました。いかがでしたか?
気がつくと私は、どの住まいでも「思い切り」という言葉を連発していましたね。
そう、この「思い切り」こそ、密集敷地の住まいを作るもっとも大切なキーワードだと思うんです。
どんなに条件の悪い敷地でも、よーく見るとどこかしらに救いのヒントがあるものです。それにどんな密集地でも頭上の空だけは必ず保証されている。つまり悪条件なのはあくまでも四周であって、「五周め」の頭上だけは必ず解放されているのです。
これらの救いに全体重を乗せて住まいを作る。まさに思い切り、救いを信頼して住まいのすべてを託すわけです。
いきおい、住まいはかなり個性的な作りになります。決して百点満点の秀才型の住まいではないかもしれない。けれども、それでいいんです。住み手の一家が「この土地に建てて良かった!」と思えること。これ一番大切ですものね。
敷地を何度も見て、救いのヒントを見つけ出す。そしてそれを思い切り信頼してすてきな住まいを作り出す。必ずできます!
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