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建築基準法改正に伴う4号特例の縮小に対し「戸建てリノベは冬の時代」「リノベ事業が苦境に陥る」など、さまざまな懸念の声を聞きました。果たして、法改正後のリノベーション市場はどうなっているのか、日々の情報収集やコンサルティング活動を通じて得られた気づきや考え方をお伝えしたいと思います。
※本稿は執筆時点、2025年6月時点での見解です。あらかじめご了承ください
リノベーション市場への影響
まずは集客の観点からになりますが、反響に関しては全くと言っていいほどブレーキがかかっていないと実感しています。もちろん法改正後は様子見の姿勢だったり、新築重視でリノベーション事業の販促投資が控えめだったりする会社は反響が減っているかもしれませんが、これまで通りのアウトプットを続けている限り、概ね堅調に推移しています。
市場が動いている背景としては「リノベ検討客は4号特例縮小を認識していない」点が一番の理由として挙げられるでしょう。
もう一つ、新築価格の高騰とリノベーション自体の認知の高まりにより、新築を諦めてリノベーションを希望する、あるいは新築とリノベーションを比較検討したりするケースが増加傾向にあるのも要因ではないかと見ています。
もちろん、リノベーションも原価高騰の影響を受けますが、工事内容によって費用を調整できる点が大きいと推察します。
懸念されている確認申請の長期化については、各特定行政庁や民間検査機関によって差が出ているようです。検査済証の有無や物件内容にもよりますが、3週間程度で確認が下りている場合もあれば、50日ほどかかっている場合もあります。
しばらく審査期間は読めない状態が続くことが予想されますが、建築リテラシーに長けた工務店が主導しながら確認申請を進めていくというかたちもあるかもしれません。
このような現状に対して、どのような対応策を取ったらいいのでしょうか。コンプライアンス意識や法的理解は大前提として、以下に主な対応策を5点ほど列挙しておきます。
1. 自社の方針、立ち位置を決める
4号特例の縮小が確実視されていた中、2024年の夏頃には“主要構造部の過半にあたらないリノベーションを主軸に展開する”と決定した会社もあった一方、当然ながら確認申請を前提にしたフルリノベーションを主対象にしていくと決断した会社もありました。特に後者の場合、内製化の可能性を探りつつ外部ブレーンを確保したり、各リノベ案件を特定行政庁に確認したり、着々と準備を進めました。
これは方針を固めたからこそ何をすべきかが明確になり、申請の可否判断をはじめ、準備ができたと言えます。もし、リノベーション事業に対してまだ自社の方針を決めていないという方はまずは方針自体を決めることが出発点になります。
業界全体で見ると、LDKリフォーム事業、マンションリノベといった領域をシフトする例や、2階建てを平屋にするリノベを掘り起そうとする動きが考えられますが、市場規模や類似コンセプトの競合の存在などを、慎重に見極めながら取り組んでいく必要があるでしょう。
2. 建て替えとリノベーションの比較提案力を持つ
前回の私のコラムと重複しますので詳しくは書きませんが、前述したように新築案件からリノベーション案件へという流れと、逆に法的な要因でリノベーションを断念し、建て替えに至るケースも想定されることから、なおさら新築とリノベの比較提案ができることのメリットが大きくなっていると考えています。
3. モデルハウスで確認申請を検証する
これまで、リノベーションのモデルハウスは性能向上のエビデンス、集客や体感装置といった観点から注目を浴びてきましたが、4号特例縮小という局面においては「モデルハウスで確認申請の知見を蓄積する」という存在意義も加わりました。
私のクライアントにおいても、主要構造部の過半に当たらないリノベーションを対象にしながら、リノベーションモデルで確認申請に挑戦する取り組みが、数社で進行中です。
まず、モデルハウスで確認申請が必要なリノベにトライし、着工までどの程度期間を要するのか、フローや必要書類など管理スキームを整備しながら、社内の生産性を含めて検証するというステップを踏むことも選択肢の一つでしょう。
4. 検査機関や外部ブレーンの確保
読者の皆様のエリアで、検査済証のないリノベ案件の相談に対応する民間検査機関や、リノベーションの構造計算などをサポートできる設計事務所はどのくらい存在するでしょうか。地域にもよるでしょうが、現時点ではかなり限られている印象です。
少し後になってから知ったことですが、大手の動向としては、2024年夏頃の段階で特定行政庁に判断を仰ぎながら確認申請が不要なプランを考案したり、法改正後のリノベーションに積極的に対応する検査機関・設計事務所を確保したり、という動きが各地であったと聞いています。
外部ブレーンとの連携は、コストアップの課題もありますが、こうしたスピード感は競合ながらさすがだと思います。
5. 集客の分母を増やすこと
最後に集客の分母自体を増やしておくこと、自社のストライクゾーンを広めておくことについても付け加えておきましょう。例えば、建て替えかリノベーションか。新築か中古を買ってリノベーションか(中古物件選びを法的観点から助言する)。
フルリノベーションかゾーンリノベーションか…中には法的な理由でお断りするケースもあり得ます。リノベーション、と一言で言っても当然ながら属性は多岐に渡り、物件の現況も様々です。
4号特例の縮小がスタートしたからこそ、なおさら自社がさまざまな属性、ニーズの受け皿になれることは、顧客視点でも会社視点でも肝要だと考えています。
以上、4号特例の縮小から数カ月経過した時点での見解をご説明しました。法改正(4号特例縮小)に対して「難しいことかもしれないが自社が取り組むべきことだ」と判断し、確認申請が必要なリノベーションに挑む工務店は各地域に存在します。
リノベーションに対して営利だけではない、矜持や使命感を持って真摯に取り組む工務店こそが地域から支持されるような市場になってほしいと願っています。微力ながら私もその役割の一端を担いながら、共に未来を切り拓いていきたいと考えています。

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