新築価格の高騰で「予算オーバーになるケースが増えてきた」という声を聞きます。また、昨今のリノベーション自体の認知度の高まりにより「新築とリノベーションを比較検討するケースが増えている」といった声も各地で耳にします。新築とリノベ、両方できる工務店だからこその「比較提案」とそのメリットを解説します。
まずは質問です。「建て替えかリノベーションか迷っている」という相談に対して、読者の皆様はどのようなスタンスで提案するでしょうか。
全てとは言いませんが、ハウスメーカーに相談すると(築浅であっても)建て替え一択で提案し、大手リフォーム会社に相談すると費用面のメリットを理由にリノベーション一択、という提案になることが多く、まだ建物を見ていない段階で提案が一つに絞られてしまうこともあるのが現状です。
会社の方針と言ってしまえばそれまでなのですが、本来は建物の現況や建物に対する愛着、時には法的な観点も含め、顧客にとっての最適解を提案することがあるべき姿のはずです。しかし、このようなスタンスの会社は規模感が大きくなればなるほど少ないのかもしれません。
一方で、建て替えとリノベーションで迷っているという上記のような相談に対して、比較提案によって信頼関係を築いている例も存在します。お客様からは「どこに相談してもどちらか一辺倒でした。建て替えとリノベーションを比較しながら提案してくれたのは初めてです」と驚かれることもあるそうです。
つまり、どちらが良いか客観的にアドバイスする立ち位置自体が差別化であり、信頼関係構築の一因になっているのです。
顧客にも工務店にもメリットがある比較提案
比較提案というかたちをとることにより、顧客、工務店の双方に下記の効果が期待できます。
【顧客側のメリット】
・それぞれのポイントが整理されることにより、適切な判断がしやすくなる
・複数の会社に相談し顧客自らが比較検討するというプロセスを省くことができる
【工務店側のメリット】
・自社の都合でどちらか一辺倒になりがちな会社が多い中、顧客に寄り添いながら客観的な立ち位置に立つことが顧客からの信頼につながる
・比較提案をフォーマット化することにより、会社の仕組みとして定着でき、結果として営業力の向上につながる
その他、集客段階から比較提案を前提に訴求することで潜在客を獲得できる、二択の選択肢を用意することで失注リスクが軽減する、といったメリットがあります。
主なメリット | |
顧客側 | ・どちらが良いか理解が深まり、判断しやすくなる ・顧客自らが比較検討するというエネルギーや時間的な負担を軽減することができる |
会社側 | ・客観的な立ち位置に立つことで自社の信頼につながりやすい ・比較提案を提案書としてフォーマット化することにより、会社の仕組みとなり、営業力の向上につながる ・二者択一という提案により、失注リスクを軽減できる |
「選択肢が一つだとそれで決めるか決めないかの二者択一となり、選択肢が複数あるほうが有効だ」という話を聞いたことある方は多いかと思いますが、上記はこの話にも通じるものがあります。
建て替えとリノベーションに限らず、要望を取り入れた予算オーバーのプランと予算内のプラン、フルリノベーションと主要構造部過半にあたらないリノベーション等比較提案を応用できる場面は多岐に渡ります。
比較提案を書面化するには
次に、比較提案を書面に落とし込むとはどういうことなのか、主なポイントを下記にまとめます。
・住まいづくりの要望や動機を記載し、認識のすり合わせをする
・どちらの選択肢においても、自社の強み・自社ならではの提案を意識する(特に新築は競合が増える傾向があり要注意)
・それぞれの提案ポイント、スケジュール、補助金を含めた費用感、診断報告などを一冊にまとめ、提案書として付加価値を持たせる
・費用はあくまでも概算というかたちにとどめ、原則として詳細見積もりは設計契約後に行う(失注によるエネルギーロスも想定し、過度な作り込みには注意)
・主導権を持ちながら、要点を比較、整理した上でお客様にとって最適解と信じる選択肢にナビゲートする
以上、単に比較提案というスタンスを取るだけでなく、書面にすること、時には家族間の意見調整をしながらナビゲートすることも意識しましょう。
新築事業とリノベーション事業の部署が分かれている場合は比較提案することが難しいこともあるでしょうが、部署の垣根を越えた共通認識づくりや評価制度の調整で、ぜひ可能性を探っていただければと思います。
テクニック論ではない、「寄り添い」という姿勢
以上、決してテクニック論ではなく、お客様の想いへの共感、建物へのリスペクトは本来地域工務店が得意とするテーマのはずです。ぜひ、こうした寄り添いをベースに自社ならではの比較提案力を磨いていただきたいと思います。

過去の連載記事一覧はこちら
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。