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縮小傾向にある新築市場の中でも、平屋の比率は年々高まっています。家族構成(世帯あたりの人数)の減少という背景がある中、2025年の平屋の比率はさらなる増加傾向を見せています。今回は、高まる平屋ニーズをリノベーション市場から見ていきたいと思います。
過去から今日に至るまで、平屋に関しては下記のような動向があります。
・2015年ごろから各地で平屋専門店が増加。平屋専門の総合展示場の開設や平屋分譲の取り組みが広がり、Meta広告やYouTube動画も増加
・全体に占める平屋率は2015年8.1%、2024年17.3%と2倍以上に伸長。価格高騰の影響もあるためか2025年度はさらに続伸
・宮崎は58.7%、鹿児島で55.8%と、比率上位は九州エリアが中心(多雪地帯を含むせいか東北エリアは低い傾向にある)。また土地取得のハードルが高い東京や神奈川など都市部では当然平屋比率が低い(2024年度)
・大手ハウスメーカーの中には平屋比率が4割を超える企業もある
・「平屋」関連ワードでのサイト流入が特に多いハウスメーカーは住友林業、パナソニックホームズ、セキスイハイムなど(その他、一条工務店をはじめ「社名+平屋」での流入が増加するパターンは複数あり)
・平屋関連の検索ボリューム上位20位のうち、約半数は間取りに関するもの(反響につながりやすいのは費用や値段、相場に関するワードが上位)
ある工務店は新築棟数が半減していた状況を打開するため、平屋に注力した結果、現在の棟数は低迷していた時期の3倍以上に拡大していると聞きます。「間取り+一人暮らし」や「28坪間取り」といった平屋ニーズを捉えたコラムが功を奏し、月間サイト流入数は5年で10倍に増加。流入の約4割が「平屋」関連経由で、社名検索による流入を大きく上回っています。
また、別の工務店はコンパクトな平屋に特化。人口ボリュームが多いことも背景に、突破口となったのはYouTube。近年、建築面積の縮小化が進む中、17坪、19坪、21坪といったコンパクト平屋のルームツアー動画経由で案件化。さらに、工務店が決まっている顧客には不動産のアドバイスを、土地や物件が決まっている顧客には建築のアドバイスを行うなど、平屋を打ち出しながら柔軟な立ち位置を取り、新築・不動産・リノベーションの受注につなげています。
前者と後者では商圏人口が一桁違いますし、コアターゲットなど相違点も多々あります。しかし、家族構成の変化といった大きな潮流に適応するかたちで即アクションを促す広告ではなく、持続性のあるコンテンツにより、潜在客にも広くアプローチしている点が興味深いです。
減築、1階だけリノベ
平屋ニーズをリノベにどう生かすか
上記は新築に比重を置いた取り組みですが、こうした平屋ニーズをリノベーション事業に活かす例が着実に増えています。
典型的な例としては、既に先行事例がある「2階を減築して平屋にするリノベーション」です。あるいは減築費用がかさむため「1階のみを改修し、平屋のような暮らしを実現するリノベーション」に落ち着くケースも多く、リノベーション受注全体のうち、6割が1階のみのリノベーションという工務店もあります。「今さら平屋か」という声もあるかもしれませんが、新築とは需給バランスが異なるリノベーション事業だからこそ実際に販促企画として成立しやすいと言えます。
平屋ニーズを踏まえたリノベーションの取り組みを整理すると、以下の点が挙げられます。
・新築市場での平屋は二極化したり、地域によっては細分化している領域だが、リノベーション市場では多くのエリアにおいて、一つのカテゴリーとして成立しやすい
・デジタル、アナログ媒体を問わず、リノベーションでも「平屋」(2階を減築し平屋にする、平屋のような暮らし、など)はパワーワード
・平屋というキャッチコピーだけの話ではなく、間取りプランのバリエーションや日射取得へのこだわりを打ち出したり、コンセプトを具現化したモデルハウスを開設したりすることが肝要
・平屋自体のリノベーションや2階建てを平屋にするリノベーションは基本、確認申請が不要となるのでその点も事業展開上見逃せない
※2階建てを減築して平屋にするリノベーションが確認申請不要かどうかは各特定行政庁に確認が必要
・平屋への建て替えを検討する層と重なるため、建て替えと「1階のみリノベーション」との比較提案が有効(費用的にリノベーションで決まりやすい)
・都市部であっても隣接するエリアに平屋ニーズが見込める地域もあるため、地域性を見極めた広告投下を行いたい
※以下は、減築して平屋にする例

減築して平屋化するリノベーション事例① ※右写真は2025年9月時点

減築して平屋化するリノベーション事例②(※現在は売却済)
今回は平屋について取り上げましたが、平屋はあくまでも一つのカテゴリーに過ぎません。ぜひ「あなたはこんなことで困っていませんか(関心ありませんか)」というエンドユーザーの目線と、自社が開催する「今回はこんな見学会(相談会)です」という訴求ポイントをいかにつなげるか、市場ニーズ、自社ができること、さらに競合状況も見極めながら、最適解や納得解をつかんでいただきたいと思います。
引き続き、私自身もエンドユーザーの感覚を常に意識しながら工務店リノベを追究できるよう努めて参ります。

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