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前職の在籍時に学んだことのひとつに「ライフサイクル理論」があります。商品やサービスが市場に登場してから成長・成熟を経て、その後安定、または衰退していく一連の過程を、ライフサイクルと言います。業界においても、このライフサイクルの各ステージに応じた事業展開が必要とされますが、実際にはステージが変化しているにもかかわらず、従来通りの販促を続けているケースも少なくありません。今回は、このライフサイクル理論をもとにリフォーム業界の変遷を振り返り、戸建てリノベーション事業の今後の方向性を考察します。
リフォーム業界の変遷
リフォーム業界は、景気や人口動態とはまた違う“時流”の変化を背景に、大きく姿を変えてきました。
導入期(1980年代前後)
1980年ごろ、大手ハウスメーカーが相次いでリフォーム事業に参入。当時は「アフター部門の強化」としての位置付けが主流でした。この時期にはリフォームのフランチャイズ化も進み、大手住設機器メーカーが主導するフランチャイズが多数誕生。多くがマーケティング面においてイメージ訴求だったことも大きな傾向の一つです。「これからはリフォームの時代」と言われ、工務店業界でも新築オーナー向けを中心にリフォーム部門への着手が広がりました。
成長期(2000年前後)
2000年前後になると、各地でチラシ反響型のリフォーム会社が急増。価格や対応範囲が分かりにくいというユーザーの不安を解消する、詳細なメニュー・サービスを記載したチラシが支持を集めました。「いくらするのかわからない」「小さな工事でも対応してくれるのか」といった当時のエンドユーザーの志向にフィットしたのが支持を集めた大きな要因です。しかしその後、チラシの同質化や一部の訪問販売業者による不信感の拡大で、反響率は多くの地域で半減します。
この時期に台頭したのが「リフォームイベント」です。メーカーのショールームや公共施設で開催するイベントが各地で盛況になりました。公共施設でのイベントは、私自身も特に研究しノウハウ化を追求しましたが、イベントは会場自体が持つ「安心感」を強みに、全国各地に広がりました。
さらに、来店型ショールームやスタジオ(空間演出)型店舗を開設する会社も増加。それぞれの領域で多店舗展開を図り、リピートビジネスの基盤を築きました。競合が増える中、各地で勝ち残っている地域一番店はまさに「成長期には積極投資を」という好例と言えるでしょう。
成熟期(2010年代以降)
2010年ごろからは需要と供給のバランスが変化し、業界は専門特化の方向へ進みます。成熟期の特徴として、飲食業界のように業態が細分化する傾向があります(ライフサイクルという点ではるか先を行く飲食業界は競争が激化する中、仕入れコストや業務効率というメリットだけでなく、訴求力の強化という背景もあり専門店を展開、さらに細分化していく道を辿りました)。
リフォーム業界でも、水まわり専門、外壁塗装専門、LDK専門といった会社が各地で増加し、一社で複数の専門事業を展開するケースも登場しました。
この流れの中で、私が注目したのが「工務店にとってのリフォーム事業のあり方」です。工務店の強みと親和性が高いのは、建物構造を含む大規模改修、すなわち戸建てリノベーション事業でした。当時から一部の工務店は、リノベーション専門事業をスタートさせています。
戸建てリノベーション業界のライフサイクル
リフォーム業界は、全体では成熟期に入っていると言えますが、戸建てリノベーション市場は別の様相を呈しています。とくに地方のエリアでは類似コンセプトの競合が増加しており、今は多くのエリアで成長期、地域によっては成熟期に近づいていると見ることができます。
断熱改修や耐震改修は差別化要素ではなく、着実に「標準」となりつつあります。市場の初期における「リノベーションという選択肢がありますよ」という訴求から、現在はニーズの多様化に応えるためにカテゴリーを細分化したり、建て替え検討客や、地域によっては中古住宅購入検討客も見据えて、新築や不動産部門との連携によって顧客を創出したりすることが有効になっている、と実感します。
大きくは「都市圏リノベ」「地方リノベ」に分けられる印象ですが、「地方リノベ」と一口に言っても、その地域によって市場のステージは異なります。地域特性を踏まえ、自社商圏がライフサイクルのどの段階にあるかを正しく見極めることが重要です。
ライフサイクル曲線上の位置を把握することで、市場の将来像を判断する指針となり、販促戦略のヒントも見えてきます。反響の減少や打開策に悩む読者もいらっしゃるかもしれません。そのような方に、本稿が少しでも参考になれば幸いです。

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