「これがわが社の強みです」と、自信を持って答えられる方は少なくないでしょう。しかし、今の強みが未来永劫強みであり続けることができるでしょうか。今回はジェイ・B・バーニー氏の『企業戦略論』を読み解きながら、リノベーション事業における競争優位性を、事例も交え解説します。
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「性能向上が自社の強みです」「デザイン力が当社の武器です」────こうした声は住宅業界でよく耳にします。しかし、その強みは本当に競合他社と比べて優位なのか、さらにその優位性は今後も長く維持できるのかと問われると、明確に答えられない企業も少なくありません。多くの場合、「今は強みだ」と信じていても、市場環境や技術の進歩によって数年後には同質化してしまうケースも珍しくありません。
重要なのは、「このような強みがあります」で終わらせず、次の観点で多面的に検証することだと語り継がれています。
•その強みは市場ニーズや時流に適応し、成長を支えるものか
•他社が提供できないものか
•真似されにくいものか
•組織や仕組みが整備されているか
さらに、自社の過去の成功要因がそのまま将来も通用するとは限らない、という前提を持つことも欠かせません。競争優位は固定的なものではなく、磨き続けることでしか保てないからです。
外部環境重視の理論と、自社資源重視の理論
競争が激しい業界で今も読み継がれる代表的書籍に、マイケル・E・ポーター氏の『競争の戦略』があります。同氏は外部環境に目を向け、競合状況を分析し、ポジショニングこそ重要と説きました。星野リゾートの星野社長が愛読書として紹介したことでも知られます。市場の構造や競争要因を見極め、その中で有利な位置を占めることが、長期的な収益性を左右するとしています。
一方で、自社が持つ経営資源に着目し、その希少性や模倣困難性を重視する理論もあります。今回はその代表として、ジェイ・B・バーニー氏の『企業戦略論』を参照します。やや理論的ですが、現代にも通じる「ものさし」として活用できる内容で、特に中小規模の事業者が限られた資源で競争に挑む際の指針となります。
VRIO ― 競争優位を測る4つの問い
バーニー氏は、企業が競争優位を保てるかどうかは保有資源と活用能力によるとし、4つの問いを提示しました。頭文字をとって「VRIO(ヴリオ)」と呼ばれます。
1.Value(経済価値)
その強みは外部環境のプラス要因を捉え、成長につなげられるか。単に自社が誇れる技術であっても、市場が求めないなら価値にはならない。
2.Rarity(希少性)
同業他社が多数保有しているものではないか。価値と希少性がそろえば地域で優位を築きやすい。
3.Imitability(模倣困難性)
真似されやすければ優位性は長続きしない。特許や専門技術、ノウハウの蓄積などが障壁となる。
4.Organization(組織)
役割やフローが仕組み化され、外部から見えにくく、組織として再現できる体制が重要。
たとえ市場ポジションを確保できても、市場変化に応じてこの4条件を満たすよう内部資源を磨く必要があります。

ハウスメーカーの住宅をリノベする
あるリノベーション会社は、ハウスメーカーが建てた住宅の改修を得意としています。
こうした住宅は独自仕様や保証の問題があり、建てたメーカー以外に依頼しづらい傾向があります。メーカー側も捕捉率(新築の顧客がリフォームなどを依頼する割合)を重視しますが、平均は3割程度。残りの市場は大きなポテンシャルです。
さらに、ネット情報の拡大で他社相談の土壌も整いつつあります。同社は「ハウスメーカー名+間取り変更」などの検索ワードに対応した記事を発信し反響を獲得。対応可能な体制は希少であり、工事方法や対応事例が積み重なるほど模倣困難性も高まります。こうしてVRIOの4条件をバランスよく満たしているのです。
古材再利用・移築の技術力
古民家関連の検索ボリュームは年々増加し、特に柱や梁など銘木の価値は高まっています。これをリノベや建て替えで再利用する工務店があります。建て替えでの古材利用は寸法調整や接合加工など難易度が高く、高度な技術が求められます。建て替え検討客に対して、差別化要素として機能します。
さらに古材の移築まで手がける場合、選別眼、法的認可、関連資格の保有は希少性や模倣困難性の源泉となります。加えて在庫力や調達力も重要。古民家解体の機会が多い地域では、顧客希望に合う古材を提供しやすくなります。集客は自社だけでなく、設計事務所や自治体との連携、広域商圏の設定が効果的です。これらを組み合わせることで、参入障壁を高く保ち、長期的な差別化につなげています。
強みを成長に変える複眼思考
これらの事例はいずれも、単なるニッチ戦略ではなく、
•市場ニーズへの適合
•他社にない希少性
•真似しづらさ
•仕組み化された組織体制
といった条件を押さえています。技能や技術という軸足に、複眼的な思考と継続的な取り組みを重ねることで、「反響 → 受注 → 実績蓄積(信頼) → 新たな案件創出」という好循環を生み、成長へとつながります。
競争優位は一度確立すれば終わりではなく、「維持・拡張・再定義」というプロセスの繰り返しです。そのためには、自社の強みを定期的に棚卸しし、時流や顧客の変化に合わせてアップデートしていく姿勢が欠かせません。

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