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断熱等級4が義務化されたいま、どのレベルの断熱性能を目指せばいいか定まっていない工務店も多い。前真之先生は「“ゆとりの断熱等級6”こそが温暖地のファイナルアンサー」だと言い切る。
断熱等級6にも「いろいろ」ある
今年4月にようやく断熱等級4が義務化され、2030年までに等級5が義務化されると言われています。とはいえ等級4・5は非常に頼りなく、早晩価値を失うレベルの性能であることはもはや常識となっています。
じゃあ地域の工務店さんはどこまでやればいいのか?――答えは「等級6」です。2030年には現在のZEH水準である「等級5」の義務化が予定されており、最低ラインとなります。
さらに国土交通省が打ち出したGX志向型住宅の要件や2027年度より認証開始されるGX-ZEHの要件が「等級6」以上であることからも分かる通り、これからの住宅のスタンダードは「等級6」以上だと考えます。
ただし、一口に等級6と言ってもそこには「ニセモノの6」「ギリギリの6」「ゆとりの6」があり、大きな問題も隠れているため注意が必要です。
ニセモノとギリギリの問題点
「ニセモノの6」とは、気密がとれていないのに等級6を名乗る住宅のこと。すべての断熱等級に気密の規定がないために、このような「ニセモノの6」が横行する事態になってしまっているのです。
気密がない住宅は、暖房時に暖かい空気が上からどんどん漏れ出し、冷たい外気が下から侵入するため足元が凍えるように寒くなります。最近は夏も1日中冷房が必要ですが、気密がとれていない住宅だと、外気中の湿った空気が壁の隙間などから室内へ移動しエアコンで冷やされ、結露してカビの原因をつくります。これがいま大問題になっています。私は以前から「気密なき断熱は無力」だと言い続けてきましたが、気密なき等級6もやはり無力なニセモノです。
「ギリギリの6」は、壁を充填断熱のみにとどめ、窓の数や大きさをムリヤリ小さくすることで、なんとか等級6のUA値を図面上で確保している住宅のこと。窓は室内に光や風、景色、開放感を届けてくれる最も魅力的な部位であり、これをUA値を小さくするためだけにアンバランスに操作する行為は住宅の魅力を著しく下げます。さらに壁の中だけしか断熱しないため、何かあったときに断熱・気密層が欠損するリスクを抱えています。

なぜ「ゆとりの断熱等級6」なのか
私がおすすめする「ゆとりの断熱等級6」は、いま家を建てる人はもちろん、75年後の2100年を生きる人たちにとっても、健康・快適・安心に暮らせるだけの十分な性能を備えた住まいです。
「ゆとりの断熱等級6」の大きなメリットは、圧倒的に快適な室温が実現できること。冬の暖房はもちろん、夏の冷房もよく効いて、暖冷房費もびっくりするぐらい安価で済みます。前述した夏の結露・カビ問題とも無縁でいられます。ギリギリの6とは違い、窓をむやみに小さくする必要がないので採光・通風が自在で明るく開放感があり、みんなに好かれるデザインの住まいをプランの制約なく実現できるのも大きなメリットと言えます。
もちろん、可能な人は等級7を目指してもいいのですが、等級6と7との間には相当な開きがあります(5地域以南で等級6がUA値0.46、等級7が同0.26)。等級7にするには充填断熱をしっかりしたうえで外側に100-200㎜の付加断熱をする必要があり、材料費と施工の手間がかなりかかります。
温暖地においては、そこまで大変な思いをする必要はないというのが私の考え。先進各国の省エネ基準や国の施策、これまでの私たちの研究を踏まえると、等級6からが快適な室温と電気代のバランスがとれるレベルで、等級6と7の中間あたり、つまり「ゆとりの断熱等級6」にちょうどいい答えがあるんじゃないかと思っています。あえて数字で表すなら、5地域以南でUA値0.34-0.36くらいのイメージです。
「ゆとりの断熱等級6」のつくり方
具体的に「ゆとりの断熱等級6」をどうつくるのかと言うと、壁の断熱層を少し強化するだけ、と簡単です。まず、柱梁間に105㎜の充填断熱をし、30㎜ほどの断熱材を外張りする。私はこの105㎜+30㎜のダブル断熱を「マイルド付加断熱」と呼んでいます。そうすると内側も外側もダブルで断熱され、これが非常に頼もしいわけです。断熱層が二重にあると、配線などの都合で内側の断熱材を多少切り欠いても外側がちゃんと守ってくれます。気密も取りやすくなり、結露を防ぐうえでも非常に有利に働きます。
マイルド付加断熱をすると断熱性能に余裕があるので、窓面積もゆったりとれて意匠的にも魅力的で愛着の持てる住まいになりますし、特別な小細工をしなくてもUA値0.3台中盤の性能値を自然に確保できます。しかも材料費や施工の手間は、充填断熱のみのシングル断熱と比べてもそこまで大差はありません。
「ゆとりの断熱等級6」を工務店の武器に
私は、地域の工務店さんにこそ「ゆとりの断熱等級6」に積極的に取り組んでほしいと思っています。
その際には、マイルド付加断熱でUA値に余裕を持たせるのはもちろんのこと、必ず全棟気密測定を行いC値1.0以下を基本に、願わくばC値0.5以下であることを毎回確認してください。
さらに夏の暑さ対策として、屋根・天井の断熱強化と、窓から低い角度で侵入する西日・朝日の日射遮蔽に力を入れること。「ゆとりの断熱等級6」だと窓が大きくとれるため、窓の外側のスクリーンで日射熱対策を徹底すれば、夏の快適性が驚くほど上がります。そしてやはり、太陽光発電がおすすめです。昼間発電した電気で冷房が使い放題になるわけですから。
「ゆとりの断熱等級6」は、地域の工務店さんの得意分野として、強力な差別化になり得ると私は考えています。その理由は、明日からでも自社の断熱・気密仕様をバージョンアップできる小回りの良さがあり、自由設計に強く、結露を防ぐダブル断熱と地元の木を使った家づくりとの相性がいいからです。全棟気密測定や、個々の立地条件に合わせた日射遮蔽対策や太陽光発電の提案にも工務店さんの強みが生きてくるでしょう。
私はこの「ゆとりの断熱等級6」を、性能と快適とコストのベストバランスを備えた「温暖地におけるファイナルアンサー」だと考えています。いまの暮らしを圧倒的に健康・快適・安心にするだけでなく、2・3世代先の2100年に生きる人にも十分な性能と長寿命な躯体を渡せる、ちゃんと資産になる住まいです。
私が一番大事だと思うのは、選ばれたわずかな人だけがその恩恵にあずかるのではなく、すべての人が健康・快適・安心に暮らせるよう十分な性能を届けること。それを実現するために「ゆとりの断熱等級6」を決して諦めないでください。

前 真之(まえ まさゆき)氏
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻科准教授。博士(工学)。住宅のエネルギー全般を研究テーマとし、健康・快適で電気代の心配がない生活を太陽エネルギーで実現するエコハウスの実現と普及のための要素技術と設計手法の開発に取り組む。2024年、賃貸住宅の高性能化のために、研究者や企業が連携して研究を進める「高性能賃貸研究会」を発足
(sponsored by YKK AP)
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