リノベーション市場は空き家問題や既存住宅の性能向上ニーズ、SDGsの観点など、さまざまな拡大可能性があります。一方で属人的な要素が高い事業ならではの人材不足という課題をかかえている会社が多いのも現状です。建設業の後継者不在率は6割以上というデータもあります。こうした背景の中、課題解決の手段としてM&Aが注目されています。私の支援先のM&A事例から、今後の可能性を考えます。
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リフォーム・リノベーション業界のM&Aというと、大和ハウスリフォームとナサホーム、サーラコーポレーションと安江工務店といった例が記憶に新しいです。人材、投資実行により経営支援するファンドの動きも活発化しています。広く建設業界では、2000年代からM&Aが急増し、ここ10年で3倍に増加しているというデータもあります。
私の支援先でも過去に1件、今年に入り2件のM&Aの締結がありました。直近の2件のうち1件は総合リフォーム系の会社がリノベーション専門の会社を、もう1件は新築、リノベーション、不動産事業などを展開する住宅会社が同じ商圏内のリノベーション専門会社を、傘下に迎え入れたというものです。今回はこのうちの一例を取り上げます。
M&Aの主なメリットとは
譲渡(売り手)側のメリットとしては、後継者問題の解決、事業の継続はもちろん、買い手側がキャリアデザインやタスクマネジメントなどのノウハウを保有する場合、導入による組織力強化も期待されます。労働集約型で人の依存度が高くなりがちな業界において、人事面で先導的な取り組みをする会社にグループインし、さっそく採用や育成システムから着手するケースも耳にします。
統合推進の過程では相互理解が進まないケース、カルチャーの融合に苦労するケースも耳にする一方、商品構成や仕様、さらに評価制度を見直し、業績や社風が一変したという声も身近でありました。評価額はもちろん大切なことですが、将来に渡って従業員にとってプラスになるかどうかは見逃せない観点です。社長が交代するかどうかによっても影響度は大きく変わります。
譲受(買い手)側のメリットとしては、事業領域の拡大、施工エリア拡大、さらなる競争力の強化などが見込めます。都市型のリフォーム会社が、郊外の同業者をグループに迎え入れて施工エリアをカバーするケースはよく見られるパターンです。「業界をより良くしたい」「業界地位を向上させたい」という使命感や内発的な動機でM&Aを行うというケースもあります。
また、新築の比重が高い会社がリノベーション事業を展開する会社を子会社化することは、当然ながらリノベーションへの対応力を身に付けることがリスクヘッジや多角化への足掛かりになり、今後増加する可能性があるでしょう。

今年5月に完成した新施設「アエルバ」。夢工房・成相修社長(左)と筆者
夢工房(島根県出雲市)は、私が前職在籍時に事業立ち上げをサポートして、リノベーション事業専門コンサルタントとして独立してからもマーケティングを中心に支援している会社です。
2018年の立ち上げ当時は社員4人、紹介を中心に新築事業(年商2億円)を展開していましたが「新築工務店の延長線上では将来像を描けない」という社長判断のもと、リノベーション専門店へ事業転換した経緯があります。一級建築士3人が揃い、建築リテラシーには揺るぎのない自信を持っていました。
確かな知識や施工管理力を持つ会社が適切なマーケティング力を身につけ、さらに類似コンセプトの目立った競合が存在しないという条件が揃っていた環境下で、リノベーション事業がうまく行かないわけがありません。成相修社長の推進力と営業の要である山田泰久専務の功績もあり、2000万~3000万円級のリノベーション実績を積み上げ、事業年商も4億円から5億円、6億円超と成長。立ち上げ当時は20%前後だった粗利率も、さまざまな粗利低減防止策を施すことにより30%を超え、利益体質の会社へと変貌を遂げました。
しかし同社は、高い営業利益を残し財務的には盤石だった一方、事業承継、新規エリアへ出店を見据えた時の人材不足という問題にも直面していました。次なる一手に行き詰っていた時に双方の思惑が合致し、M&A締結に至ったのがマエダハウジング(広島県広島市)です。何社か候補先があった中で譲受側である前田政登己社長の「これまで培ったDNAや価値観を尊重しながらいかにより良くしていくか、いかに長く続く会社にしていくか」という強い想いが決め手になったと聞いています。業界内では前田社長の経営手腕は定評があり、性能向上リノベの会(中四国エリア部会)を通じて、視察しあうなど交流があり、お互いのリスペクトという前提もありました。
リノベーションにおいては深い知識を持ち、良い意味で工事業的なカルチャーが浸透する夢工房が「地域で輝く100年企業になる」というビジョンのもと標準化、仕組み化を一貫して進めてきたマエダハウジングへグループインすることにより、双方にとってプラスになることが期待されます。M&Aの効果を見極めることは本来難しいことではありますが、夢工房にとっては特定の営業担当者に依存していたことも課題でしたので、人的支援や暗黙知からの仕組み化が進むことで、自社だけではなし得なかったエリアの拡大もしやすくなるかもしれません。
つまり、単なる事業譲渡ではなく、成長・拡大戦略が売却によって実現する可能性を秘めています。マエダハウジングにとっては、グループ全体で今期目指していた年商50億円がより現実的なものとなり、かねてより注力してきたリノベーションの知恵やノウハウのさらなる蓄積は、結果として複合企業体として進化し企業価値の向上につながるでしょう。
既存の店舗網ではカバーしきれなかった県境の小商圏への対応などシェア拡大や、島根出身の社員がいずれUターンする場合の受け皿としても機能する可能性もあります。
統合プロセス次第でM&Aがリノベーション業界発展のきっかけの一つに
多くの日本企業が外部知識を取り込むこと、外部知識と連携することで進化を遂げてきたと言われます。知識の連携や人的資源の融合という観点から、上記のようなM&A事例は決して上下関係ではなく、お互いの成長戦略の選択肢の一つである、とつくづく思います。
とは言えM&A締結までが円滑に進んだからと言って、それはあくまでもスタート時点でのことであり、契約締結がゴールではないことは言うまでもありません。リノベーションという属人的な要素が強く、複雑なプロセスを踏む事業において、時間はかかるかもしれませんがM&Aによって今後5年、10年、あるいはそれ以上の年月に渡り様々なメリットを生み出し、「1+1が3になる」ような可能性の広がりを期待して止みません。

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