若手設計士のみなさんこんにちは。
今回もいろいろな窓を見てまいりましょう。
前回は、窓でしっかり開き、壁でしっかり閉じることでメリハリがつき、場所の魅力がいっそう増すというお話をいたしました。今回はここから出発いたしましょう。
大きな窓と耐力壁を両立させる工夫
大きな窓を開けたいけれど、耐力壁も確保しなければならない。特に間口が大きく取れない住まいの場合、大きな窓と耐力壁を両立させる工夫が必要になりますよね。
下の写真はそんな工夫をした例です。居間の窓を間口いっぱいに大きく設け、そこから少し後退した位置に耐力壁を設けて壁量を確保しています。
同時にこの耐力壁は、2つの楽しい場所を作り出しました。窓辺で景色や日光、風を楽しむ昼間の場所、そして少し奥まって落ち着いた夜のくつろぎを楽しむ場所です。

【写真1】藤沢の家 設計・前田哲郎/前田工務店(写真・西川公朗写真事務所)
下の2枚の写真も同じ設計者による住まいですが、同じ手法が用いられています。
外観の写真のように、間口いっぱいに大きな窓が設けられています。そして下側の写真は1階の内部です。大きな窓を背にして室内側を撮っています。
この住まいでもまた、開口から奥まった位置に耐力壁を設けています。1階を広々としたワンルームにして、中央に水回りや収納をコア状に配しているんですね。

【写真2,3】湯河原の住宅 設計・前田哲郎/前田工務店(写真・有限会社フォワード 楠瀬友将)
一見、扱いの面倒そうな耐力壁も、工夫次第では場所の魅力を高める存在にまでなってくれます。上の2つの住まいはこうしたことを気づかせてくれる貴重な作例です!
大窓の向こうが小さな庭でも大丈夫
ところで上の【写真1】の住まいをご覧になってお気づきかと思いますが、大きな大きな窓を設けて室内とつなげた外の庭は、実は意外なほど小さい場所なんですね。
別アングルから見てみましょう。

【写真 4,5】藤沢の家 設計・前田哲郎/前田工務店(写真・西川公朗写真事務所)
ご覧のように、決して広々としたお庭ではありません。けれども部屋から眺めた外は驚くほど伸びやかで明るく、日常から切り離された楽しさを感じさせてくれます。
これがまさに前回の最後にお話しした例なんですね。敷地の広がりに制約があるのなら、むしろ大きな開口でどんどん外とつなげて行く。こうすることで住まいに大きな大きな広がりを与えることができるのです。
この住まいのお庭も奥行きは大きくないけれど、横方向に思い切り広げることでパノラマ的な広がりもたらしてくれています。正面には塀を立てて、奥へと向かおうとする視線を左右へと切り替えています。

【写真6】藤沢の家 設計・前田哲郎/前田工務店(写真・西川公朗写真事務所)
このお庭はまた、すばらしい鑑賞式日本庭園にもなっています。小さなお庭ですが、すばらしい景色がそこにはあります。
外の奥行きが深ければそれに超したことはない。奥の先にさらなる奥を作り出すことができます。けれどももし奥行きが限られているならば、みずから景色を創ってしまえば良い。塀や垣根を設けたりベンチなどの造作を設けたり、大小の植栽で重なり感を出してみるなどなど。広さがなくてもすてきな奥は必ず創れるのです。
周囲が建て込んでいても大窓は作れます
けれども敷地の周囲がとても建て込んでいて、小さな景色さえなかなか設けられない。隣家が迫っているので明るさもなかなか確保できない。そんなケースもまた多々ありますよね。
そこで、次はこうした建て込んだ場所でどのように大きな窓を設ければ良いか、すてきな作例がありますので紹介いたしますね。
下の2軒の住まいはかなり建て込んだ敷地に建てられていますが、LDKを吹き抜けのワンルームにして、思い切って目線の高さを周囲からほぼ閉じています。そして頭上に大きな窓をたくさん設けることで、LDKをとても明るく開放感のある場所にしています。下から眺めると空がたくさん見えるのです。

【写真7,8】瀬古の家 設計・藤井雄一朗/アルヒフト建築研究所(写真・山内亮二)

【写真9】有馬の家 設計・前田哲郎/前田工務店(写真・西川公朗写真事務所)
大窓の向こうはガッチリ囲い込んだって大丈夫
でもでも、建て込んだ中でどうしてもLDKと外を同じレベルでつなげたい。何か良い方法はないだろうか。そういうケースももちろんたくさんあるはず。そこで紹介したいのが次の作例です。
この住まいもまたかなり建て込んだ敷地に建っていますが、大きな窓で外としっかりつなげています。外の板塀がキラキラと輝いて、柔らかい反射光を室内へと導いています。

【写真10,11】あまのベッセル 設計・藤井雄一朗/アルヒフト建築研究所(写真・山内亮二)
この板塀によって、住まいのお庭は完全に周辺環境から自立しています。周囲からはまったく見えないけれど、そこにはこんな宝物のような外があるんですね。
そして下の住まいも同様な手法で作られています。建て込んだ敷地の中、大きな窓で外としっかりとつなげています。日差しにも恵まれた明るいLDKです。
そして外の背景となっているのは、打ち放しコンクリートで建てられた存在感あふれる壁。この壁のおかげで「そこに外がある」感、「外を切り取って住まいの一部にした」感を強く感じさせてくれます。

【写真12,13】BABA VOVO 設計・礒健介/礒建築設計事務所(写真・YASHIRO PHOTO OFFICE)
実はこのお庭、下の写真のように奥行きわずか900ミリほどの小さな小さなお庭なのです。がLDKをL字形に取り巻いて3Dのパノラマ感を出すことで、横へ横へと伸びて行く絵巻物のような広がりを与えてくれています。

【写真14】BABA VOVO 設計・礒健介/礒建築設計事務所(写真・YASHIRO PHOTO OFFICE)
住まいを外に向かって広げる意思を持とう
これらのすばらしい作例から、私たちは実に多くのことを学べます。
うんと外に開いて広がりがたくさん欲しい。周りは建て込んでいるけれど、どうにかして広がりを作り出すんだ。このような強い強い意志を感じ取ることができます。
今回紹介した住まいには、どれもみなこのような強固な意志を感じます。
敷地の条件も広さも予算もライフスタイルもさまざまだけれど、その土地に一家のためのすてきな住まいを建てて暮らそう。そして、与えられた環境をもとに豊かな外を作り出して、少しでもたくさん豊かに楽しく暮らそう。住み手と設計者のこんな思いがそのまま形をまとった住まい、そんな住宅を今回は特にたくさん紹介したように思えてなりません。
窓の話、ほかにもまだまだたくさんあります。
次回もまた楽しい窓と住まいを紹介いたしますね。
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