若手設計士のみなさんこんにちは。
前回は住まいの設計がとても楽しいものなのだとお話ししました。
《関連記事》【若手に伝えたい】「家づくりは楽しい。自分を信じて」
今回は少し踏み込んで、住まいの設計を楽しむには具体的にどうすればよいかを考えてみましょう。
固く言うと、住宅とは人々の生活用途のための建築物です。
だが住み手の目線から考えると、この言い方は固くて冷たすぎる・・・。
むしろ住まいとは暮らす楽しさ、生きる楽しさを味わうための場だ。そう考えた方がより親しめるのではないか。善き設計士になるための”心構え”として大切なことだと思っている。
そこで今回いちばん話したいことを真っ先に言ってしまおう。
住まいとは何なのかー?
ズバリ、人が楽しく過ごすための小さな場所がたくさん集まってできた容器です。ただ集まっただけでなく、場所どうしが濃密なつながりをたくさん持った容器なのです。
子ども室を例に場所を考えてみる
ところでここで言う「場所」ってなんだろう。部屋とどう違うの・・・?
なんだか抽象的でピンと来ないことと思います。そこで例として子ども室を考えてみましょう。
子ども室は名のとおり、子どものための一つの部屋です。細かく見ていくと、その中には無数の楽しい場所がたくさんあります。
下の立体図をご覧ください。私の考えたある子ども室です。広さは2275㎜×3640㎜。収納込みでわずか5帖、正味4帖の小さな洋室です。
こんな小さな部屋ですが、中にはさまざまな場所がたくさん入っています。子どもさんは朝起きてから夜眠るまで、これらの場所でいろいろなことをして楽しむ。極端に言えば、それこそ子ども室の中にさらに場所の間取りが存在する。その様子を描いたのが下の図です。
これらの場所が豊かで楽しい存在になってくれるように家具を並べ、開口部の位置や大きさを決め、物の置き場を設けましょう。
まず人がいて、そのための場所がある。そしてその場所を楽しいものにするために、あらゆる建築要素が配されていく。
ザッと間取ったらさっそく場所を並べてみよう
以上の話は一見抽象的でセンチメンタルに感じた方もいるかもしれません。実務との関係も希薄だと思った人もいるのではないでしょうか。
けれども、こう考えてみたらどうでしょう。
エスキースをするとき、おそらくは四角い部屋を並べていくのが一般的でしょう。
小さな敷地ならば、法規の制限から導かれたサイズの四角形の中を細かく仕切って間取りを作ることが多いかもしれない。
だが四角い部屋が並ぶのであってもかまわないから、そこに小さな場所を並べるという作業を付け加えてみてはどうでしょうか。
場所にはあえて「室名」をつけず「~を楽しむための場所」と名付けてみる。
部屋が並んだ結果、住宅ができあがるという従来の通念を、自分の中で一度解体してみる—。これまでとは違った視点から設計を考えることができるようになるかもしれません。
壁を立ててしまう前にまずじっくりと場所づくりを
ところで場所を考えるとき、大切なことがあります。
壁を立てるのを少し「後回し」にしてほしいのです。
普通なら内と外は外壁で仕切った状態で考え始めると思いますが、ちょっと待ってみませんか。
外部にだって楽しい場所はたくさんあるのです。
表庭はもちろん、玄関ポーチ、勝手口、カーポート・・・。あらゆる箇所には固有の楽しさが必ずある。
奥行きわずか450の犬走りにだって楽しさの素は必ずある。こんな宝の山をいきなり内部と仕切るところから始めては、あまりにもったいない・・・!
間仕切り壁ももう少しあとでいいのです。間仕切り壁というのはプライバシーのためにやむを得ず用いる便宜的なパーツくらいに考えましょう。
構造は諸刃の剣
間取りができあがったら、さあ柱を入れて耐力壁を決めようというのは、ここでは「ちょっと待った」。
柱や耐力壁は構造上、不可欠な存在ですが、エスキースのどの時点で検討するかもまた重要です。なぜならば、せっかく考えた場所とつながりを耐力壁が断ち切ってしまう恐れもあるからです。
極端に言うと、楽しい住まい作りにとって構造体は諸刃の剣でもあると言えます。
住まい全体の場所づくりをしてみる
さて、では場所づくりを一軒の住まい全体にわたってしてみるとどうなるだろうか。一緒に見ていきましょう。
下の図はある住宅の1階平面図。本稿のために私が作りました。ごらんのように、できるだけ普通の間取りで作ってみました。
この平面形に少し出っ張りや引っ込みを加え、開口部の配置や大きさを場所性に合わせつつ、検討してできあがったのが下の立体図です。
ごらんのように壁は一切描いていません。内と外の境界も描いていない。もちろんあとから壁で仕切りはしますが、仕切る前にまず場所づくり、そして場所のつながりを考える。これが大切なのです。
小さな日本の住まいであっても壁を描かないと、なんと広々としていることでしょう。まるで大きなデパートの家具売り場にでもいるかのよう。それでいいのです。
ここまで考えたらやっと開口部を考えていく。壁はまだ先。壁は開口部を存在させるための下地というくらいに考えてください。
ではこの家にはどのように開口部が取り付いていくのか。上の立体図はこの先どのように開口部や壁をまとうのだろうか。
今回は字数が尽きてしまったので、ここからは次回にじっくりとお話しお付き合いくださいませ。
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