「断熱や耐震を訴求するリノベーション会社が少しずつ増えてきた」「近くに耐震・断熱改修を施したモデルハウスがオープン」「『リノベーション+エリア名』の検索で、工務店系の後発企業が自社より上位に表示される」――性能向上というコンセプトを持つリノベーション会社が着実に増えて、他社との同質化が大きな課題になってきているエリアもあるようです。
成果を出しているなら、特に表層的なものは追随・模倣されてやがて同質化していくというのは必然の流れです。今回は、同質化が進む状況から一歩前進するための考え方を述べたいと思います。
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類似化、差別化、差異化
「類似化ポイント」とは、競合と共通する要素、当たり前のこととして満たすべき点であるという意味です。例えば一定レベルのデザインや基本的な施工品質はどの会社にとっても当然押さえるべき要素です。中古リノベ事業ならワンストップのようなサービス面も共通しやすい要素と言えるでしょう。その他、性能向上が当たり前のものとなり、同質化しつつあるエリアが着実に増えていると実感します。
一方で「差別化ポイント」は、さらなる空間デザインの追求やよりハイレベルな性能向上という意味合いです。もちろん、これらは顧客視点においても、リフォームではないリノベーションならではの意義という観点からも可能性を探っていきたいものではありますが、同軸の競争になりがちという懸念が残ります。
そこで今回取り上げるのが、優劣ではない別軸というニュアンスを持つ「差異化ポイント」です。やや筆者の主観が入った解釈ではありますが、私は情緒的な価値や組織文化が差異化に該当すると考えています。
工務店ならば、実家リノベーションの思い出をあらゆる顧客接点で言語化し、発信することで自社らしさを構築しようとする例があります。また、新築事業も含め自社ならではの組織文化を見つめ直し、発信するという例もあります。独自の価値観や信念、らしさなどに通じる組織文化は、複合的に長く醸成されてきたものであり、個別的・独創的なものであるため他社には模倣しづらい点が大きな特徴です。
このように類似化ポイントは当然のこととして抑えた上で、差別化ポイントを追求したり、さらに差異化ポイントをバランスよく発信したりすることで、独自性を生み出す可能性が広がります。
差異化ポイントを発信する工務店の例
■ 一次取得は狙わず、持ち家リノベ、特に家に思い入れがある層をターゲットにする工務店
➡︎実家リノベーションをテーマにした相談会をSNSで告知し、ウェブサイトでも実家ならではの郷愁を訴求するコンテンツを作成し、営業ツールにいたるまで一貫性を持たせて自社が想定する客層の獲得につなげている(単なる発信だけでなく、建物に対する寄り添うという姿勢がベースにある)
■「暮らしと幸せがつながる」「家族のつながり」「地域とのつながり」といった想いを重視する住宅会社
➡︎家族とのつながりが伝わる施工事例写真や、単なるモデルハウスではなく公民館的なスペースとして地域に開放、初回面談でも必ず会社が重視していることとして説明し共感型営業を行っている
■創業以来、大工育成に取り組み、伝統技術の承継と現代の技術を吸収するための研鑚に努めている工務店
➡︎ショート動画を中心に自社大工が一つ一つ手間暇かけて施工する、その工程を発信し、地道にリノベーションの担い手としてブランディングを構築中
■北欧の住思想を地域に根付かせていきたいという新築事業の想いを、伝統文化に対しても尊敬の念を持ちながら、リノベーション事業でも共有し展開する住宅会社
➡︎こうした思いを、リノベーション専門サイトやジャパンディを意識したリノベーションモデルハウスといった顧客接点で具現化。新築の来場客がスムーズにリノベーション案件になるなど、相乗効果を生んでいる
■「未来を見据えた住まいづくり」が社内で共感・共有されており、仕様はもちろん、施工現場にいたるまで浸透している工務店
➡︎SNSをはじめとした日々の発信だけでなく、すべての営業担当者の言動にもそれが表れており、組織文化に共感する客層からの受注につなげている
各社、それぞれに数値では表せない価値や当然のように信じている職業観、独自の組織文化をアウトプットしながらリノベーション事業を展開する例があります。

このように差異化ポイントを発信したり体現したりできている例がある一方で、社内では当然視されているものの、差異化ポイントが無形のものであることが多く、可視化されにくいため、エンドユーザーにとって認識することができずにいるケースも見受けられます。
地域によって競合環境の違いはありますが、リノベーション事業において単に性能向上だけでは同軸競争となり、同質化するケースは今後さらに増えていくと考えられます。
差異化ポイントは新たなコストをかけて生み出すものではなく、多くが既に持っているものです。もし、差別化に限界を感じたら、差異化ポイントを見つめ直し、既存のアウトプットに加えたり、融合したりしながら、中長期的に独自ポジションを築いていただきたいと考えています。

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