バウムスタイルアーキテクト一級建築士事務所は、施工(請負)も手がける設計事務所だ。同社の代表で建築家の藤原昌彦さんは「僕にとって施工は設計の延長線上にあり、“設計行為のひとつ”」と位置づける。現場で施工しながら得られる情報を、常に設計にフィードバックしながら、ディテールを磨き込み、空間をブラッシュアップしていく。
同社が独自のスタイルで生み出す建築は、工務店などプロの注目も集め、今年4月に造園家の荻野寿也さん(荻野景観設計)とのコラボによって岡山市内に完成させた中庭のある二世帯住宅「田中の家」も、多くの業界関係者が視察に訪れた。【編集部 関卓実】

外観は、「連続していく屋根」をイメージして寄棟に。書斎スペースを「離れ」として計画することで、内部と外部が呼応するような空間的関係をつくり出している
閑静な住宅街に建つ平屋建ての「田中の家」は、50代半ばの施主夫婦と、その妹(50代前半)の3人が暮らす二世帯住宅で、延べ床面積は142㎡。そこに北側の約20㎡のカーポートと敷地の南東の隅に建つ約10㎡の「離れ」が加わり、敷地(約360㎡)のおよそ半分を建物が占める配置となっている。
同社を訪れる他の多くの顧客と同様に、同社が手がける「庭と一体化した住宅の世界観が好き」と自ら探して来てくれた施主から細かな要望はほとんどなく、「家族が安心、安全に生活できるバリアフリーな環境にしてほしい。(夫婦と妹が)お互いにとって程よい距離感を保ちながら共に暮らせたら」ということのみだったという。
外壁を焼杉から無垢に変更
街に対する威圧感を軽減
藤原さんは、要望を踏まえてバリアフリーに配慮し、敷地が広さに恵まれていたこともあり、「家族の老後の暮らしにも優しい」平屋を選択。「(夫婦と妹)それぞれのプライバシーを尊重しながらも、気配を感じ合える距離感を意識した構成」にした。敷地の北側は道路に接しており、対して南側は視線の抜けを確保できる環境だったことから、建物は敷地の北側に寄せながらカーポートも配置し、「北に閉じて、南に大きく開く」プランにした。
外観は、雁行した形状(平面)や無垢のスギ板による外壁、寄棟の屋根が特徴だ。外壁材については当初、焼杉を用いる予定だったが、藤原さんは現地を訪れて周辺環境を確認するなかで、施主とも相談しながら無垢のスギ板(クリア塗装)に切り替えた。「建物を道路側に寄せてカーポートも配置する関係で、道路側にはふんだんな植栽を施せないこともあり、焼杉の黒い“かたまり”は周りにかなり威圧感を与えると感じた」と藤原さん。無垢のスギ板の色味や質感が、街並みや道路を通る人たちに対して柔らかく温かみのある印象を与え、威圧感を軽減している。
藤原さんは、意匠性やバリアフリーなどの観点から、玄関へのアプローチをできるだけ長く取りたいと考えた。敷地の地盤面が道路から50㎝ほど高いことも踏まえながら、雁行する建物に沿ってアプローチを設けることで、玄関までの長さを確保しながら、それによって傾斜を緩やかにすることができた。
両棟から豊かな庭を望む
中庭を囲むL字型に
藤原さんはこの住宅のプランの要点について、「(夫婦棟と妹棟の)どちらからも気持ちのいい緑豊かな庭を眺められること」と説明する。そのために・・・
この記事は新建ハウジング7月10日号4・5面(2025年7月10日発行)に掲載しています。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。


























