政府の中央防災会議のワーキンググループは12月19日、「首都直下地震の被害想定と対策について」(PDF)と題した報告書を公表した。2015年に実施した首都直下地震対策の基本計画の策定から10年が経過したことから、防災対策の進捗状況を踏まえて、被害想定や防災対策の見直しを行ったもの。
これによると、都心南部でマグニチュード7クラスの直下地震が発生した場合に、死者が約1.8万人、災害関連死者数が約1.6万~4.1万人、全壊・焼失などの建物被害が合わせて約40万棟、避難者が約480万人、帰宅困難者が約840万人に上ると推計している。いずれも住宅・建築物の耐震化(2023年時点:約90%)や感震ブレーカーの設置(2024年時点:約20%)が進んだことから、前回想定より2~3割減少している。

新たな人的被害・建物被害想定
現行の基本計画で掲げた減災目標の進捗については、建物倒壊や地震火災により想定される死者数が2.3万人から約35%減少し1.5万人に。全壊・焼失が想定される建築物が61万棟から約42%減少し36万棟となった。
その一方で、基本計画の減災目標だった住宅の耐震化率95%、家具の固定率65%には届かなかった。ちなみに個人でも対策可能な、建物の耐震化率や感震ブレーカー設置率をそれぞれ100%として被害軽減効果を試算すると、耐震化では87%、ブレーカー設置では72%被害が軽減されると推計されている。

防災対策の効果試算
地籍調査の遅れが復旧の壁に
今後の対策については、建築物・施設の耐震化、中でも2000年以前に建てられた木造住宅の耐震化を促進。住宅などのブロック塀についても耐震診断と倒壊防止対策を図る。家具の固定に関しては、一般の賃貸住宅や公営住宅などで穴を空けなくても可能な家具転倒防止措置の周知を図り、転倒防止措置に係る原状回復義務を免除する方向で検討する必要があるとした。
また、復旧・復興期には東京圏を中心に、用地や資材・人材の不足により仮設住宅の建設難が予想されるため、既存住宅の活用が不可欠となっている。民間賃貸の「みなし仮設住宅」協定や空き家の事前登録を進めるとともに、応急仮設住宅の建設に要する資機材の調達体制と用地の事前確保を求めた。
被災後の復旧事業や区画整理事業に必要な地籍調査の進捗も課題となる。2023年時点の地籍調査の進捗率は全国平均の53%に対し、東京都は25%、神奈川県は15%、千葉県は19%などとなっている。まずは災害リスクの高い地域から重点的に地籍調査を進める必要がある。
都が算定根拠などに異議
この報告書に対して東京都は、同日の記者会見で「国の算定根拠が実態に即しておらず、国民の正しい備えにつながらない」と反発。電力被害の算定に約10年前の古いデータを用いていることや、対策のひとつとして二地域居住が盛り込まれていることなどに異議を唱えた。都は今後、最新のデータに基づいて独自の被害想定を策定し、世界で最も強靭な都市を目指すとの決意を示している。

2022年時点の都による被害想定
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