「どこでも誰にも良き住まいを――」、略して「どこ誰」。これを実現するには何が必要なのか。
新連載『どこ誰』では、そんな住まいの理想を掲げて、前真之先生(東京大学大学院准教授)が全国の工務店や多様なステークホルダーに突撃取材。「健康で快適に暮らせる、十分な性能の家をすべての人に届ける」ことの重要性を説き続けている前先生とともに、「十分な性能の家」の普及に立ちはだかる課題とその解決策を探ります。
第1回は、埼玉県東松山市の夢・建築工房 代表・岸野浩太さんと「長期優良住宅」について語り合いました。

小さな家で価格上昇に対抗
住まい手も変化している
前:家づくりと、それを取り巻く貴社の現状について教えてください。

岸野:以前は断熱等級7の住宅を建てたいお客様が、自ら高性能住宅に対応できる工務店を探して来てくれたので、こちらから積極的に営業をかける必要はありませんでした。当社もその状況にやや甘えていた面がありました。
しかし今は状況が変わっています。多くの工務店が高性能な住宅を提供できるようになり、一方で新築住宅の購入を希望するお客様は確実に減っています。賃貸で十分と考える方や、安価な建売住宅を選ぶ方が増えていて、断熱等級6や7に強くこだわらないお客様も含め、できるだけ多くの層を取り込む方針に営業を転換しています。
もちろん高性能は不可欠ですが、建築費は抑える方向にシフトしています。その上で、どうやってコストを抑えつつ高品質な家を提供できるかということに注力しています。
たとえば、ガラスの選定ひとつで温熱環境は大きく変わります。同じ価格のガラスを選んでも、エ夫次第でより快適性を高めることができます。等級6の家でも、当社で工夫すれば「等級6.5」相当の住み心地にできると考えています。お客様への説明でも、断熱等級の話はあまりせず、エネルギーコストや冷暖房費の削減効果について伝えるようにしています。同じ価格でランニングコストが下がるなら、そちらを選ぶのが自然です。

左:岸野さん 右:前さん 夢・建築工房は「性能」のその先へと家づくりを進化させている
前:コストを抑えるために、具体的にどういった工夫をされていますか?
岸野:入口の価格帯はかなり下げてきています。坪単価というよりは、設計や仕様をシンプルにすることで、結果的に坪単価が下がっています。
本体価格(30坪・税込)で3500万~4000万円、付帯工事などを入れると4000万~4500万円、土地代がこの地域だと1500万〜2000万円というのがひとつの目安ですが、コストを抑えるためにまず取り組むべきは「家を小さくする」こと。最近では25〜26坪といったコンパクトな住宅も増えてきました。工務店の間でも、小さいモデルハウスを建てようという動きが全国的に活発化しています。24坪でも家族4人が快適に暮らせるということを示すショールームも多く、中には20坪程度の家を実例として提案しているところもあります。

前:単に床面積を減らすのではなく、スペースを有効に活用するということでしょうか?
岸野:まさにその通りです。昔は寝室8畳・子ども部屋6畳+収納という間取りが一般的でしたが、最近は子ども部屋を3畳程度の寝るだけのスペースとし、勉強はリビングで、というスタイルを選ぶご家庭も増えています。つまり、無理に削っているのではなく「これくらいでいい」と考える方が増えているのです。
25坪程度のコンパクトな家でも、間取りの工夫によって無駄を省き、必要なスペースに絞って合理的に設計することで、十分に快適な住環境を実現しています。
長期優良住宅の制度と現実
前:建物の寿命を延ばし住み継いでいくことで、性能確保に必要なコストを世代間で分担できますよね。
岸野:おっしゃる通りです。そのため当社では、性能や質のエビデンスとして・・・・・
この記事は新建ハウジング8月30日号16面(2025年8月30日発行)に掲載しています。
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