小川建美(岡山県倉敷市)は、多くの住宅会社が規格住宅や分譲住宅にシフトするなかで注文住宅にこだわり、OB顧客をとことん大事にする「ファンベース」で安定した集客・受注を確保している。社長の小川賢一さんと、集客担当の藤井阿弓さんに話を聞いた。

年1回開催する感謝祭(運動会)には100組のOB顧客が参加して綱引きやリレーを真剣に楽しむ。会場は岡山ドーム。昨年からOB顧客を交えて運営内容を決める取り組みを始めた
倉敷市にある同社のオフィスを訪ねると、入口に一番近い席に座る男性が出迎えてくれる。彼こそ社長の小川さんだ。
同社の組織図は「逆ピラミッド型」で、社長は一番下。2011年入社の藤井さんは、入った時からこうだったと振り返る。「デスクの位置だけなく、業務もトップダウンでああしろこうしろと命令されたことは1度もない。組織なので当然報告はするが、社員がしたい挑戦は基本的に認めて応援してくれるし、社員を信じて任せてくれる社風。すぐには成果が出ないこと、明らかに失敗に終わったことでも、原因や責任を追及するのではなく、次はどうすれば達成できるかをそれぞれが考えて実行する“結果思考”の空気が流れている」と藤井さんは言う。
楽しい家づくりじゃなかった
同社のこうした社風の出発点となったのは20年前、「DIYホーム」というブランドを立ち上げてから。その直前までは苦境の真っ只中にあったという。一時は26億円あった売り上げが5億円まで減り、一番多い時で借金は15億円に。「毎日遅くまで頑張っても一向に業績が好転せず、来月契約できなかったら倒産というところまできた時に、いっそのこと今までとは真逆の方向で頑張ろうと腹を括った」(小川さん)。
覚悟を後押ししたのが、打ち合わせを終えた顧客の口から漏れた言葉だ。丸2日かけて間取りや仕様を決めた後の第一声が「疲れた」、その次が「もう2度と家づくりなんてしたくない」だった。「みんなが2度としたくないようなものを売る自分たちの価値って一体何だろう?と思い、妻に『買い物って疲れる?』と聞くと『楽しいに決まってるじゃない』と。妻がウキウキして買い物をするショッピングモールとうちとの決定的な差は何か。観察してみると“選ぶ楽しみ”だと気づいた。そこでミッションを“楽しい家づくり”に変え、標準仕様を全部取っ払って“ゼロから選べる注文住宅”に特化しようと決めた」。
建材設備をすべてメニュー化
そうして始まったDIYホームは、プランだけでなく工法から素材まで、住まい手の要望をとことん尊重する。何気ない雑談の中にこそ潜在的なニーズが隠れていると考え、時間をかけて“濃い関係”を築き、打ち合わせそのものを楽しくすることで、遠慮のない本音を引き出せるようにした。さらに・・・
この記事は新建ハウジング5月30日号2面(2025年5月30日発行)に掲載しています。
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