注文住宅市場が冷え込むなか、非住宅用途の木造建築に挑む工務店が急増。この分野で受注するには建築企画のノウハウが不可欠。その第一歩となる「超」基礎知識を600字のショートストーリーに盛り込んだ。
文・イラスト: 大菅 力
❶「レデッドオーシャン」からの逃走
注文住宅は顧客、社内人材、職人ともに出口なし。勝者不在のチキンレース
「…送信っと」と逃山はマウスをクリック。そのとき背後から声がする。「A邸の見積もりか?」。逃山は「あっ…はい」と反射的に返事。営業部長の陰村は頷いて去っていく。
(あっぶねー。画面は見られてないよな)。逃山は冷や汗。若手営業マンの逃山がメールしたのは転職用の履歴書。この会社というより、業界に見切りを付けていた。
インフレで家づくり意欲は冷え込み受注は激減。現場監督も2人辞めた。現場は荒れて建て主のクレームも激増。Googleにその内容が書き込まれ、集客にも影響が出ていた。「早くここから逃げないと」。逃山は焦りを感じていた。
そのとき、「いやー参った」。大声を上げて現場監督の裏田が帰社。「建て主が現場に来て、基礎の職人が外国人だって文句付け出してさ。人種差別だよな」。
周りを見る逃山。逃山以外の若手は外出中。「でも工事はちゃんとしてるんですよね?」と逃山は聞き役に。
「それが結束にミスがあって。第三者検査に指摘されたよ」。なぜか嬉しそうな裏田。
ミスがあるのも無理はない。施工マニュアルは日本語。外国人にはチンプンカンプン。「これからどんどん職人は外国人になるぞ。第三者検査の会社も大変だ」。
裏田はまるで他人事。施工マニュアルを覚える気もない。そんな2人の会話をこっそりと陰村は聞いていた。
(俺の決断は正しかった)。陰村は来週、強引に会社を辞めて外国人相手の不動産会社の営業に転職することを決めていた…
❷「建築企画」は“相続”しか勝たん!
相続案件の土地活用の一貫で戸建て賃貸を受注。建築企画は攻めたもの勝ち?
首都圏郊外の住宅街。築50年の一軒家が建つ。敷地は110坪。イサカイ工務店社長の伊坂井は腕組み。「売らずに、住まずに相続か」。相談主は高齢のOB客。相続人は息子3人。現金はないが土地は手放したくないという。
2024年の相続法改正で登記義務が課せられ、贈与加算は7年に延長。相続は捕捉され、税額は増える。伊坂井は不動産屋の揉田に相談。
「最近、相続案件が多いな。税理士や司法書士を巻き込んで相続対策チームを結成しよう」と揉田。伊坂井は承諾。冒頭の案件は土地を3分割。A・B区に戸建て賃貸を建て、C区は空地とする案に。
A・B区の土地建物は東京に住む長男と次男が法人を設立して所有。C区は個人として地元に暮らす三男が相続。A・B区は貸家建付地扱いとなり、小規模宅地特例を活用すれば評価は大幅に減る。
「家賃は月16万で見込めるから利回り6%は出る」。計画がまとまるのを待っていたようにOB客は他界。プランは実行された。
半年後・・・
この記事は『新建ハウジング別冊・月刊アーキテクトビルダー5月号(2025年5月10日発行)特集建築バズ企画斬』(P.8〜)をデジタル版に再編集したものです。続きは本紙でご覧いただけます。
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