コンサルタントという仕事柄、各地の工務店から相談を受けますが、「人口が多い、少ない」「築古戸建が多い、少ない」「マンションが多い、少ない」など、自社を取り巻く商圏特性の違いが議題に上がることが多々あります。そこで、今回はリノベーション事業を主テーマに商圏特性の違いと適切な販促について、私が関わった具体例を交えながらお伝えしたいと思います。
施工実績や分断要因をもとにした商圏人口と、単なる行政人口は本来違う概念ですが、ここでは便宜上後者を前提にします。あらかじめご了承ください。
そもそもリフォーム業界では、リペア事業、水まわりや外壁塗装といったリフレッシュ事業、LDK事業、リノベーション事業の順に、単価が上がれば上がるほど、発生頻度が少なければ少ないほど必要とする人口が増加していく傾向があります。小売店や飲食店のように来店だけを見ればよいわけでなく、リノベーション事業では現場調査や施工、アフターにいたるまでの移動時間も考慮に入れた適切な商圏設定をする視点が大切であることは、言うまでもありません。
以下、大きく3つの人口規模別に分けて、リノベーション事業における傾向や留意点を記載します。様々な要素がからみますので一概に言いきれない部分はありますが、販促媒体の選定や配分などの参考にしていただければ幸いです。
1、大規模の商圏(人口100万人以上)で展開する例
100万人以上の人口を背景に展開する場合、基本はWEB・SNSだけで集客が成立しています。筆者が関わるクライアントは200万人という人口ボリュームがある中で、事業の立ち上げ段階では紙媒体を採用していましたが、軌道に乗ってから紙媒体は一切使っていません。
また、一次取得者、あるいは単身女性のような顧客属性をコアターゲットにしたリノベーション事業でも成立しやすくなります。木のマンションリノベーションの事例が、政令指定都市から生まれてきているのも理にかなっているといえるでしょう。
ただし、100万人以上のエリアにおいてWEB・SNS中心の集客を展開してきた会社が、商圏人口が限られた他エリアへ出店すると、反響不足で軌道に乗らないというケースがあります。このように集客が課題である場合、単に人口ボリュームが要因だったりするので、事業領域を調整したり、紙媒体を活用したりして打開していく必要があります。
2、中規模の商圏(人口20万~50万人程度)で展開する例
リノベーション事業の商圏で一つの基準となるのがこのゾーンです。
一例ですが、隣接市町村含め人口約20万人のエリアにおいて、リノベーション専門店を展開するクライアントがいます。出会った当初は「人口が限られたこのエリアでリノベーション事業が成立するのか」という地域性、特に人口ボリュームに関する相談を受けましたが、現在は事業年商が6億円を超え、SEO対策と年に数回の完成見学会だけで安定的にリノベ案件が発生する状況になっています。
特に北陸地方や山陰地方等で見られる特性ですが、築50年以上の住宅の比率が2割近くあり(旧耐震基準の建物の耐震化率も50%前後と低い)、競合状況など条件が揃っていれば、20万人ほどの商圏でも徹底的に打ち手を講じることで確固たるポジションを築くことができます。中規模商圏での販促媒体は紙媒体中心からWEB、SNS中心へと比重をシフトさせていくパターンが多いです。
3、小規模の商圏(人口10万人未満)で展開する例
東北エリア某市で展開するクライアントは、人口が3万人程度。リノベーションを重視しつつ幅広くリフォーム事業を展開しています。年に2回イベントを開催するほか、小規模な相談会を継続的に開催し、現在は事業年商が3億円を超えています。
こうした10万人未満の小商圏エリアでは、事業領域を絞りすぎると事業化が難しくなる傾向があります。また、WEB、SNSのみでリノベ案件を獲得することはかなりハードルが高いです。ですので「リノベーション+その他のリフォーム」を対象に、チラシや看板といったアナログ媒体を効果的に活用することが王道と言えます。
今後、人口減少化にともない、こうした小商圏エリアはさらに人口が減っていくと予測されますが、人口が減っているのは基本的に若年層なので、新築事業ほど悲観する必要はなく、むしろポテンシャルを秘めたエリアと考えています。
足元商圏だけでなく、隣接エリア、または移住ニーズも柔軟に取り込む例
一方で、人口規模は足りていたとしても街自体の歴史が浅く、自社が狙う3000万円級、あるいはそれ以上の大規模リノベーション案件が限られているという場合もあるでしょう。
こうしたケースでは自社所在地ではなく隣接する市・郡部に目を向けて、広告投資することにより、大規模リノベーション案件を創出する可能性を探るのも一つです。山や大きな河川といった分断要因もなくスムーズに移動できること、自社が存在する都市に購買等の意識が向かっていることが条件ですが、大型のリノベーション案件が郊外、もしくは山間部の、主に農家・民家から発生するという状況は各地で見られる傾向です。
また、比較的築浅の建物が多いエリアでありながら、首都圏からの移住ニーズを取り込み、リノベーション事業年商の約2割を移住関連で補っている例もあります。自社をとりまく商圏内において、古民家をはじめ旧耐震の建物が多いかどうか、大手リフォーム会社がどのようなエリアで見学会を開催しているかも参考材料になります。商圏とターゲットが不整合にならないよう、俯瞰的な視座が肝要だと言えます。
自社の商圏に合った打ち手を
以上、今回は自社をとりまく商圏の特性を正しく認識し、適切な打ち手を講じることの大切さについて述べました。
特に人口が少ないことを理由に、事業化の可能性を見限ってしまうのは早計です。もし小さな商圏だとしたら、対象の調整が必要になることがありますが、リノベーション事業自体は参入障壁が高い障壁ビジネスと言われており、非競合になりやすい地方商圏にこそチャンスがあると私は強く実感しています。
また、前述の通り足元商圏でないエリアに自社が狙うリノベーションのニーズがあるかもしれません。ぜひ「商圏の見極め×精度の高いビジネスモデル」で活路を見出していただきたいと思います。

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