若手設計士のみなさんこんにちは。
住まいのすてきな場所とつながりを考えるシリーズ、今回と次回とで住まいのタテのつながりを考えてみましょう。
今回は吹き抜けに、そして次回は階段に着目しましょう。
住まいを設計するとき、「ここを工夫すると住まい全体がとてもすてきになる」というようなパワースポット的な場所がいくつかあるような気がします。そして吹き抜けと階段は間違いなくそんな場所の一つと言えます。
これは住宅だけではなく、お店でもホテル、ビルなどでも、吹き抜けや立派な階段があるとやはりすてきですものね。
けれども現実の住まいではなかなか難しいことが多い。特に吹き抜けは、コストや構造などの問題はもとより、まずクライアントさんの同意を得ることがなかなか難しいんですね。
住み手にとっては一部屋でも多くほしい。そして少しでも収納が多くほしい。そんな中で何もない空っぽのスペースを提案しても、「床を貼ればもう一部屋作れるじゃないか」「吹き抜けはいらないから納戸にして」といった要望はどうしても出てきてしまうものです。床面積に限りのある小住宅ならばなおさらのことですよね。
それでも、吹き抜けを効果的に設ければ住まいは何倍にも魅力を増します。それも「ここは吹き抜けにでもしようかな」という消極的な起用ではなく、吹き抜けを住まいの中心として計画的に設けるのです。そうすることで、大切な場所のつながりがヨコ方向だけでなくタテ方向にもどんどん拡がってくれます。
吹き抜けによって大変豊かな、一体感のある住まいを作ることができるのです。
ではさっそく、そんな豊かな作例を見てまいりましょう。
吹き抜けを中心に据えて、ヨコにもタテにもつながる立体的な楽しい住まいを
下の住まいをご覧ください。
室内の中央に吹き抜けがまずあって、その周囲にいろんな場所が散りばめられてお互いにつながり合っている様子がよくわかります。1階ではLDK、和室、そして収納までが吹き抜け空間に参加し、さらに頭上には「たまり」の場所があったり、吹き抜けの真ん中を渡る楽しい空中階段までがあります。
まずはじめに吹き抜けがある。そしてその周囲に場所を散りばめ、全体を一体の大きな場所にする。こんな当初からのアイデアがそのまま実現された、楽しい住まいです!

【写真1,2,3,4】居場所の家 設計・工藤健志/建築設計事務所RENGE
上からの光で意識を頭上に導く
吹き抜けを設けたら窓をあえて上階のレベルにだけ設けてみると、下階の人はきっと上を見上げてくれます。こうすることで場所どうしのタテのつながりはいっそうスムーズになってくれます。
特に敷地の周囲が建て込んでいて1階レベルになかなか窓を設けづらいとき、この手法はたいへん効果的です!
下の2つの住まいでは玄関を吹き抜けにして、2階のレベルに大きな窓を設けています。1階に窓はなく、光は頭上からだけ降ってきます。こうすることで、住まいに入った直後に意識が自然と2階に導かれて行くのです。
そして見上げた窓から見えるのは大きな青い空。建て込んだ敷地に住まいがあっても、広々とした空がいつも見えてくれます。どんな敷地だって頭上の美しい空だけは必ず保証されているのです。
そしてこれらの住まいでは階段も、ごく自然に吹き抜けに寄り添って上階へと誘ってくれます。人の流れをタテ方向にスムーズに導いてくれる秀逸なプランニングです!

【写真5,6】高基礎の家 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)

【写真7,8】小平の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
見上げて見下ろす楽しさ
吹き抜けがあることで、下階から見上げたり上階から見下ろしたりできるパノラマ的な楽しさが生まれてくれます。
下の住まいでは1階のLDKを見下ろすための大きな窓や、アールのついた踊り場までが設けられています。
上と下にいる家族同士で話をしたり、上にいる家族に「ごはんができたよー」と声をかけたりする楽しい生活風景がいかにもたくさん生まれてくれそうです。

【写真9,10】西阿知の家 設計・森田葵/あおいも一級建築士事務所
隠れ家からこっそり覗く
かと思うと、あえて上階に小さな小さな覗き窓だけをポツッと設けて、顔を出して住まいの景色を眺めたり、子供さんがいないいないばあをして楽しむような、吹き抜けならではの立体的な遊び心もまた魅力的ですね。
小さな開口ではあるけれど、家族のつながりをもっともっと強める頼もしいしつらえです!

【写真11】空中縁側の家 設計・森田葵/あおいも一級建築士事務所

【写真12,13】小石川の家 設計・森田葵/あおいも一級建築士事務所(写真・中村晃)
吹き抜けは小さくたって良い
光を下階まで導いてくれる吹き抜けの特徴を活用して、上階と下階の間にわずかに隙間を設け、そこから光をふんだんに採り入れたのが下の住まいです。
東側に大きな窓があり、そのすぐ内側には小さな小さな吹き抜けがあります。幅は内法でわずか32センチほどのささやかな吹き抜けです。
ところがこの吹き抜けがあるおかげで、1階の子ども室はいっそうたくさんの明るさに恵まれました。さらには真上のダイニングルームともつながって、いつも家族の気配を感じ取ることができます。
吹き抜けは、大きくなければいけないということは決してありません。この例のようにわずかな隙間を設けるだけでも、そこには豊かな光とタテのつながりが生まれてくれるのです!

【写真14,15,16】小平の住宅 設計・青木律典/デザインライフ設計室(写真・長田朋子)
楽しい空中廊下
下の住まいでは大きな吹き抜け空間の真ん中に、橋のように通路を架け渡しています。
どうでしょうこの通路、いかにも歩いてみたくなるすてきな場所だと思いませんか?まるで谷間を渡る橋のようで、冒険心に満ちた楽しさを感じますよね。
このような通路はよく「空中廊下」と呼ばれます。吹き抜けを設けたらぜひ、上階の移ろいの場所を吹き抜けとセットで設けてみましょう。いっそうにぎやかで楽しい住まいになってくれます!

【写真17,18】本郷の家 設計・関口敏之/関口建築設計事務所
いかがでしたでしょうか。吹き抜けの活用術はきっとまだまだたくさんあると思います。
吹き抜けは集合住宅では難しいけれど、戸建ての住まいだからこそできるすてきな演出です。ぜひ住まいに採り入れてみてください。
タテの場所、次回は階段を考えてみましょう。お楽しみに!
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