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岡本工務店は、みかんで有名な浜名湖北岸の三ケ日町(みっかびちょう)で、創業以来150年近い歴史を紡いできた。五代目の岡本和久さん(社長、一級建築士)はいま、自社のターニングポイントに立つ。「地域の人たちに愛され、憧れられる“旗”(ブランド)を掲げながら、地域の課題解決にも貢献する“なくてはならない工務店”になれるか」。自ら問う岡本さんの視線は、老舗がさらに進化していく未来を見据える。
岡本さんの祖父に当たる三代目・市郎さんの時代に、大工の“黄金期”を迎えた。市郎さんを含む4人兄弟全員が大工で、家族総出で住宅や学校、店舗など地域のあらゆる木造建築を手がけたという。次にバトンを受け継いだ岡本さんの父で、四代目の孔一さん(現会長、大工)は1991年に法人化を果たし、工務店としての業態を整え、新しい時代を切り開いた。
日本大学理工学部建築学科を卒業後、東京都内のデザイン事務所に勤務しながら、アパレルブランドなどのショップデザインに携わっていた岡本さんは、孔一さんが足場からの転落事故で大けがをしたのを機に28歳で帰郷、家業に入った。岡本さんは「長い業歴を通じて地元で培った信頼を基盤に、工務店として宣伝や営業をする必要はなく、親戚・縁者の家の新築や積み上げてきたオーナーを中心とするリフォームで、十分に安定的な経営を持続できる状態だった」と当時を振り返る。

住宅・建築業界の経営者・実務者コミュニティ「釿始」の活動における一幕。住まい・建築・不動産の総合展BREX関西の会場で。最前列中央に岡本さん。マナビの過程で出会える全国の工務店仲間が「何よりも大切な財産になっている」という
受け身一辺倒から脱却 新ブランド「N」立ち上げ
自らアクションを起こすことなく、地域の人たちから自然に頼まれる仕事を粛々とこなしていく生き方は、地元に根を張る大工・工務店としては王道にも見える。が、100年をはるかに超える時代の荒波を越えてきた老舗のDNAを受け継ぐ岡本さんの“生存本能”は「いまのままでは間違いなく歴史と伝統が途絶える」と警鐘を鳴らしていた。長い間、景気が低迷した後、コロナ禍を経て十分に賃金が上がらないまま物価上昇局面に入り、加えて“未体験ゾーン”の超少子高齢化社会における住宅市場では、受け身一辺倒でただ仕事が来るのを待つことは「座して死を待つ」ことに等しい。
7年前に代表に就いた岡本さんは、自社の注文住宅のオリジナルブランドという“旗”を掲げようと心を決めた。それは「地元の工務店として、地域の人たちを幸せにする住宅を届け、地域を元気にする」という決意表明でもある。そんなタイミングで・・・
この記事は新建ハウジング8月20日号2面(2025年8月20日発行)に掲載しています。
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