4号特例の縮小もあり、工務店の構造・耐震に対する意識は高まりつつあるが業界全体を見れば構造の重要性が浸透しきっているとは言えない。
あまたの工務店・住宅事業者と接している建材・設備メーカーや工務店支援企業から、今の住宅業界・社会に対する提言をもらった。
Q1.構造・耐震の専門家として、日本の住宅・工務店の現状をどう分析していますか? Q2.今の住宅業界・工務店に対して、構造・耐震の専門家としての提言をお願いします。 |
耐震+制震+強度の徹底検証で、繰り返す地震対策
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パナソニック アーキスケルトンデザイン株式会社 代表取締役社長 松川 武志さん |
A1. 施主の希望にあわせた柔軟な間取り提案やコストを抑えた建築ができる工務店は、価値観や暮らし方が多様化し建築価格が高騰している今、有効な解決策を提供できる存在です。一方で今年の法改正を機に、住宅の高性能化が構造のみならず、省エネ性能も含めて全方位的に大きく進むと予想される中にあって、工務店が「高性能な住宅の提供者」として施主に認識されていないことは課題であり、工務店・施主双方にとって損失だと考えます。
A2. 構造・耐震分野で長らく問題が指摘されていた4号特例が縮小され、建築時の強度検証が強化されることは歓迎すべきことで、工務店には負担の小さくない出来事ではあるものの、施主に選ばれる工務店になるチャンスとも言えます。
今年4月の法改正を控え多くの工務店で構造計算方法の見直しが実施されています。当社が独自の「テクノストラクチャー工法」の提供において約30年間、全棟でパナソニックによる許容応力度計算を必須としてきたように、多くの工務店がこの度の法改正を機に許容応力度計算を選択し日本の住宅の耐震強度が向上すること、それが施主に理解され名実ともに工務店が「高性能な住宅の提供者」へ進化することを期待します。
製品・サービスの概要 | |
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当社は全棟邸別の許容応力度計算に加え、繰り返す巨大地震への強さを備えた「テクノストラクチャーEX」を提案。地震力の割り増し係数は1.75倍に設定、制震ダンパーを搭載し、さらに震度7の地震波を与える4D災害シミュレーションも実施。 |
繰り返しの地震にも揺るがない家を、制震技術で
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アイディールブレーン株式会社 会長 佐藤 孝典さん |
A1. 近年、工務店、設計事務所はもちろん、住まい手の意識が高まり、耐震等級3の住宅が当たり前になってきた。また構造計算によって設計をする建物も増えており、木造住宅の安全性は年々高まっている。ただし、最近ではYouTubeで情報を得る住まい手が増えており、間違った情報や偏った情報が氾濫する中で、正しい情報を見極めることができないと間違った方向に進んでしまう。住まい手とつくり手の信頼関係がより重要になると考える。
A2. 耐震住宅は1回目の地震には非常に強いが、2回目以降の繰り返しの地震に見舞われると、接合部や釘に緩みや損傷が発生し、耐震性の低下を招く。この耐震性の低下を防ぐのが「制震装置」である。制震装置が地震のエネルギーを吸収することにより、建物の変形や損傷が小さく抑えられて、長く安心して暮らせる住宅となる。ただし、流通するさまざまな制震装置の中には、性能が不十分であったり、また、住宅1棟に使用する数量が少なかったりと、ほとんど効果の得られないケースも散見される。耐力部材のように、共通の指標による数値化がされていないだけに、制震装置の選定や使用する数量が重要となる。
製品・サービスの概要 | |
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1.「家まるごと制震ダンパー」にする究極の制震装置「制震テープ」 |
2.性能、施工性、コストなど高い次元でバランスのとれた「ミューダム」 | |
3.間取りの自由度との共存を求めた「DSダンパー」 | |
4.自社の研究所での静的・動的の受託試験サービス |
耐震リフォームで、工務店が地域の未来を守る
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日本木造住宅耐震補強事業者協同組合 事務局長 関 励介さん |
A1. 新築では耐震等級3や制振部材の導入で耐震性が担保されていますが、既存住宅の耐震化は道半ばというのが正直なところです。能登半島地震では古い住宅が全壊し、2000年以前の住宅では1階が壊れて2階だけが残るという被害が生じていますが、これは30年前の阪神・淡路大震災の被害状況と同じです。つまり、「耐震」という言葉は一般的になりましたが、耐震化が必要な既存木造住宅はまだ数多く残されているのです。
A2. 地震大国日本において、地域と生活者の安全・安心をつくるのは工務店・リフォーム会社の役割だと考えます。生活者が住まいのリフォームを考える際、風呂・キッチンなど快適性の向上を優先してしまいます。全国の自治体は耐震診断・補強への補助制度を設けていますが、制度があるだけでは進みません。工務店・リフォーム会社がその間をつなぐことで、ようやく耐震化が進むのです。
大規模改修やリノベーション時だけでなく、一般的なリフォームの際も耐震化の重要性を伝えて提案する。1棟ずつ耐震化が進むことで、少しずつ地域が強くなっていきます。地震が発生することを当たり前と捉え、いつ地震が起きても問題のない『地震耐国日本』をつくりましょう。
製品・サービスの概要 | |
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耐震診断の基本や効率的な補強設計、木造戸建てを使った現地調査実務研修、耐震技術認定者資格など、27年間で培ったさまざまなノウハウで皆様をサポート。国の住宅リフォーム事業者団体登録制度に登録しています。 |
進化する木造住宅、変化の波を乗りこなす工務店へ
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福井コンピュータアーキテクト株式会社 住宅建材事業部 住宅商品開発室 室長代理 城地 優一さん |
A1. 近年の木造住宅は構造計算や制震技術を取り入れることで安全性が高まり、年々高性能になってきています。しかし、住宅業界では木材・建材の供給不安定や人材不足、申請提出書類の増加などのさまざまな課題がある中で、現状維持に留まらず日々の業務に改善点を見いだしながら、目まぐるしく変化する業界の動向をいち早くキャッチアップして実行していくことが工務店に求められているのではないでしょうか。
A2. 構造・耐震分野では属人化が進んでいる工務店が少なくなく、人材不足や紙ベース業務の課題解決にはデジタル技術を活用した「DX化」が不可欠です。
特に、2025年の法改正で業務量が増加する4号建築物を扱う工務店においては、効率的なデータ共有を可能にするクラウドサービスの「ARCHITREND Drive」や「ARCHITREND ONE」、構造計算に特化した「ARCHITREND ZERO」などのDXツールを日常業務に取り入れることで、設計効率を高め、施主とのコミュニケーションにより多くの時間を割けるようになると考えています。
製品・サービスの概要 | |
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当社は意匠設計から構造計算、申請業務まで一貫対応可 能な3D建築CAD「ARCHITREND ZERO」を開発・販売しています。2024年10月リリースのVer.11では、4号特例縮小や省エネ基準適合義務化に対応し、設計業務を強力に支援しています。 |
地震に強く資産価値の高い家づくりを工務店主導で
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Make House株式会社 代表取締役 眞木 健一さん |
A1. 工務店は日本の住宅建築の重要な担い手ですが、設計力に改善の余地があるように思います。基本設計段階で構造を考慮したプランニングができておらず、耐震強度確保の効率が悪化し、余分な材積が必要となるケースが多いです。内部直下率100%を意識した合理的な設計を行うことで、コスト削減はもちろん、地震に強く快適な住まいづくりが可能になります。
A2. 地震の多い日本の家づくりでは許容応力度計算による耐震等級3取得を標準化すべきです。許容応力度計算は壁量計算より耐震性能が高く、精密な計算で無駄な材積を抑えながら強度を確保できる点が特長です。この違いを丁寧に説明することで、自社の信頼性向上にも寄与します。また、内部の耐力壁を減らし基礎の立ち上がりを少なくすることで、コスト削減や将来的な可変性を確保した柔軟な間取り設計が可能です。耐震性の向上と構造のコストダウンを両立し、スケルトン・インフィルによる資産価値の高い家づくりを推進することが必要と考えます。
製品・サービスの概要 | |
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Make Houseでは、許容応力度計算による構造計算サービス(18万円~)や、内部直下率100%のプラン提案(5万円~)などを通じ、耐震性の高い家づくりの設計支援を行っています。 |
パネル化は耐震向上だけでなく
直面する多くの課題解決策の最適解に
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株式会社ビスダックジャパン R&D 主任 髙島 章さん |
A1. 高齢化による人材不足と熟練工不足、さらには技術継承問題を抱えており、建築基準の厳格化と建築資材高騰によるコスト増、住宅需要の変化、資源の有効活用などといった、喫緊に対応すべき課題も多い。一方、品質へのこだわりや高い現場対応力を持つ工務店、地域ニーズを把握している工務店、新しい技術導入に意欲的な工務店も多く、国内工務店のレベルは高いと感じている。
A2. 直面している課題を解決する方法の1つとして、従来のようにフレームを建てて大壁を施工するのではなく、軸組を含めたパネル化が挙げられる。古来の仕口を活用しつつ、モノコック構造の両面貼り、断熱材・建具・電気配線を内蔵するなど、パネル化によって徹底した効率化を図ることで、施工精度の向上に伴う耐震性の向上、超短工期の実現をはじめ、多くの課題を解決の方向へ導くことができる。木造住宅の着工棟数は減少しているが、技術レベルの高い工務店はさらなる売上を目指しており、パネル化は最適解になると思われる。
製品・サービスの概要 | |
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タフボード:柱間にはめ込むだけで高耐力が得られる主軸在来軸組六工種パネル構法:在来工法の六工種(床・壁・間仕切・天井・小屋・屋根)をパネル化し、主軸と組み合わせることで驚異的な短工期を実現した構法 |
この記事は新建ハウジング1月10日号part2 4・5面(2025年1月10日発行)にも掲載しています。
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