リノベーション検討客を分類するにあたり、年齢や性別、価格に関することなど、さまざまな分け方がある中で、今回は志向について述べていきます。
工務店のリノベーションを追究するきっかけ
「これからはリフォームの時代だ」という意識が高まりつつあった10数年前、私が抱いたのが「工務店にとってのリフォームとは」という問いです。当時、専門店化という流れがあり、その中で水まわり特化型が先行していましたが「大衆商法的なリフレッシュ工事は、果たして工務店が取り組むべき事業領域なのか?」という問題意識がすべての始まりです。
こうした問いがきっかけで、紆余曲折を経てたどりついたのがリノベーションというテーマです。さらに、リノベーションと言っても多様な実態がありますが、耐震補強や断熱改修を伴う2000万円・3000万円級、あるいはそれ以上の戸建てリノベーションこそが、工務店の設計力、大工力を活かせる領域だという結論となり、今日に至っています。
リノベーション検討客 3つの志向と工務店の立ち位置
私は、リノベーション検討者の志向は大きく捉えて3つあると見ています。一つ目は大企業という安心感から全国ブランドの大手に依頼するという志向です。これには家を建てたハウスメーカーに依頼するというパターンも含まれるでしょう。二つ目はインダストリアルやナチュラルなど自分が好むテイストが最優先で、それを叶えてくれそうなデザイン系の会社に依頼する志向です。そして、三つ目が高い施工品質や性能、素材を含めて“本物を求める”という志向です。
必ずしも明確に分けられるとも限りませんが、多くの工務店にとっては「三つ目の志向に一貫して応えること」、または「一つ目や二つ目の志向に働きかけ、顧客創造する」ことがリノベーションの方向性であり、立ち位置だと考えています。

リノベ検討客3つの志向
志向、価値観を押さえたマーケティング
前述の“本物を求める”志向に応える設計力、施工力が備わっていることが大前提ですが、単に社名を知ってもらうという認知ではなく「自分が考えるリノベーションを実現してくれそうだ」「建築のプロだ」と認識してもらうこと、いよいよアクションを起こす時に「リノベーションのことなら、〇〇に相談しよう」と第一に想起してもらえるようになることが理想です。
つまり、対象とする特定の顧客が自社のリノベーション関連ページの情報を読み終えた時、あるいはYouTube動画を視聴し終える度に、専門性やプロとしての信頼感を抱いてもらえるかどうかがカギになります。こうした観点で考えると、Instagramやショート動画の拡散力は生かすに越したことはありませんが、それと同等か、もしくはそれ以上に「性能向上関連コンテンツが充実した自社サイト」や「施工中の様子を解説するYouTube動画」が有効になると考えています。単にそれぞれの媒体に役割があるという意味だけでなく、多くの工務店にとって、後者のほうが高い親和性があるという考え方です。
私のクライアントの中でも、新築事業で培った強みをベースに、こうしたアウトプットができている工務店ほどリノベーションの受注単価が高い傾向があり、それは建築のプロであるという信頼を、顧客接点で得られている証でもあると捉えています。価格帯が高くなるほど障壁があるため競合が限られてくる点、自社の建築リテラシーをより活かせるという点で成約につながりやすくなり、結果として業績向上につながっています。会社と顧客との整合性が機能しているとも言えるでしょう。
「工務店を探すのは難しい」というリノベーション検討客の声
私は実験という目的も含め、微力ながらエンドユーザー向けにリノベーション情報を発信するサイトやYouTubeチャンネルを開設した経緯があります。こうした発信を通じて、伝えてきたことのひとつに「リノベーションを検討中なら、地元の工務店に相談してください」という、会社選びにおける一貫した提案があります。
会社選びの判断基準も伝えているつもりですが、何本か投稿していくうちに「大手は依頼先としてすぐに思い浮かぶが、性能向上含め自分が思い描くリノベーションに相応しい工務店さんを探すのは難しい」というメールが直接、私宛てにぽつりぽつりと届くようになりました。
つまり、前述の三つ目の志向である施工品質や本物志向のリノベーション検討客は、総じてリサーチ力が高く、ビジュアル情報に加えて、文字情報、動画情報等収集およびスクリーニングする傾向があると推察できます。一方、そのシビアな選択眼を通して、土俵に上がることができる工務店は一部の先行事例を除き、限りなく少ないというのが私の実感です。
アウトプットの着眼点
■リノベーション関連コンテンツ(知識と実績の掛け合わせ)が新築コンテンツと同等のレベルにあるか
■マーケティング面で、新築、リノベーションに関わらず貫き通すこと・柔軟に使いわけることについて、線引きができているか(良いこだわり、邪魔になるこだわりの判断は難しい)
■診断や施工のこだわりといったプロセス・情報など、暗黙知になりがちな要素の外出しはできているか、リノベーション関連コンテンツは完成後の画像に偏りすぎてないか
■リノベーション関連ページの情報量やカテゴリーは開設当初より増えているか(ここ数年、何も変わっていなければ要注意)
■ブログやコラムの大半がリノベーション関連の記事になっているか(ご存知の通り、専門性はGoogleの評価基準の一つ)
■一つの指標として「リノベーション+エリア名」でのGoogle検索順位が1位または2位になっている(10位以下や年々下がっているなら、要注意)
企業側起点から、対象とする顧客の志向起点へ
もし対応でき得る建築リテラシーがあるにも関わらず「リノベーションの依頼自体が少ない」、「反響があっても、客単価や顧客の予算が想定より下回っている」、「理想とする顧客像の反響が得られていない」という課題があるのでしたら、志向とアウトプットの整合性において、視覚的な要素に限らず、自社が発信するリノベーションの情報量は足りているのか、発信する言語情報や動画情報が本物志向の顧客層の選択眼にかなうものなのか、一歩引いて、自社を俯瞰して見ることをおすすめします。
私は常々、現時点での反響結果(単価や属性など)も相見積り先さえも、アウトプットに起因するものが大なり小なりあって、その延長線上に今の結果があり、取り組み次第で顧客も相見積り先もコントロール可能であると考えています。需給バランス、競合状況が変化する、あるいは市場が成熟するほど重要な視点ではないかと思います。
もちろん、マーケティング先行になってはいけませんが、アウトプットの巧拙が信頼度に比例すると言われる時代において「設計力、施工力に自信があるがいかに発信すればよいかわからない」という方にとって、何か一つでも気づきとなり、若干でも市場活性化につながれば幸いです。

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