3 「安くておしゃれ」があたり前
ファストファッションが受けている理由は単純である。「安くておしゃれ」だからだ。安いだけでは、あれだけの消費者は飛びつかない。
これまでの低価格品は「安かろう悪かろう」というのが当たり前だった。この常識を破壊したのが、日本におけるSPAの先駆者である「ユニクロ」である。
ユニクロはファストファッションとはビジネスモデルがやや異なり、品質がまずまずのベーシックアイテムを低価格で提供することで大量生産と安価化を可能にした。
同社の製品はコーディネートに際して「地」になる部分であり、他社製品との組み合わせを前提にしたものだ。そのためデザインの志向性を先鋭化させる必要がなく、デザイン的にもマスマーケットに訴求しやすいものとなる。こうした考え方は、アパレルではないが、「無印商品」なども同じである。
余談になるが、こうした「品質がまずまずのベーシックアイテムを低価格で提供する」というモデルは、いまのところは住宅の世界では成り立たないと思われる。アパレルに比べてユーザーの知識水準が低く、自立の度合いも低いからだ。ただ、将来的にはユニクロ的なビジネスモデルはむしろあるべき姿のひとつである。
こうしたユニクロがつくった低価格市場に、「おしゃれ」という新しい概念を持ち込んだ、ファストファッションのブランドが軒並み支持を受けるのは当然のことであった。ユニクロ的な「安くていいもの」を当たり前と捉える消費マインドに、「安くておしゃれなもの」という要求が加わる流れは、住宅産業にも必ず到来すると思われる。
「安くておしゃれなもの」を望む消費マインドをもう少し掘り下げてみると、「更新可能」というキーワードに突き当たる。情報化社会において流行はめまぐるしく変わる。若い世代は一生モノの洋服などほしいとは思わない。多少品質が悪くても、シーズンごとに気軽に買い換えられる価格とラインナップを充実させてほしい。これが偽らざる彼らの本音だろう。
こうした消費マンドの20代中ごろの世代が、あと5年もすれば住宅ローンを組んで家を建てるようになる。家づくりに関連する消費マインドも、こうした傾向を強く帯びてくるのは必須といえる。
4 「安くておしゃれ」はモノで勝負
では、住宅における「安くておしゃれ」「更新可能」とはどういうことになるのだろうか。要素別に見ていきたい。
「安い」を追求すると、基本的にはベーシックなかたちの小ぶりな家になる。建物の外観や空間構成で個性を出すのは難しくなる。仕上げ材もベーシックなものが中心となり、高価な材料や手間のかかるものは採用できないだろう。要は昨今、流行の兆しを見せている「規格(企画)」住宅的な空間となる。
もうひとつの「安い」をかたちにする手法が、中古物件の購入である。中古物件を購入して、インテリアをやり変えて整えていく。こうしたリノベーションは既存の空間がベースになるので、窓の配置や間取りなどは変えられない。空間で個性を出すのが難しいという点においては、「規格住宅」の空間と同じである。
こうした廉価な空間をいかにして「おしゃれ」にしていくのか。方法は限られている。家具やファブリックの選択や配置、そして小物のスタイリングである。シンプルな空間に家具で味付けをしていく方法が、低価格寄りの住宅においては中心になってくるだろう。
前述した「更新可能」ということを考えると、家具も造作というよりは置き家具が中心になってくる。前回に提案した、家具屋とのコラボレーションというのが、低価格帯の住宅の提案においても重要になるだろう。
「安い」と「おしゃれ」を考える上で、もうひとつがセルフペイントなどのユーザーによるDIYである。これも安価かつ更新可能な手法である。DIYのアドバイスができる体制づくりやそうした材料の販売、塗り換えしやすい下地の提案、究極的にはスケルトン渡しなどがプロ側に求められる提案となるだろう。
こうした前述した住宅提案は、ファストファッション系の店のつくり方そのものでもある。前述したように空間の表現としては見るべきものがないのだが、低価格を前提にした空間のまとめ方としては、以下のように参考になる部分が多いのである。
ファストファッションの店舗においては、空間の個性をつくるのは表層のプリントやアート作品、キャッシャーなどのアクセントウォール、そして商品である。照明はレイアウト変更にいかようにも対応できるようにライティングダクトなどをベースにまとめられており、什器のフレキシビリティが重要視されている。
安価でおしゃれな住宅インテリアとの共通性が高いことがお分りいただけただろうか
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