2024年度から個人住民税均等割の枠組みを用いて、国税として1人年額1000円を市町村が賦課徴収する「森林環境税」が開始された。
森林環境税として国民から徴収された税金は「森林環境譲与税」という名称の下、主に国内の森林整備や国産材需要拡大に充てられる。納税義務者6000万人強が対象となり、一人当たり年間1000円が徴収される。その税収は年間600億円強にのぼる。
ここでは国産材の最大の需要家である地域のビルダー、工務店、大工は森林環境譲与税の活用主体となれるのか、活用するとしたらどのような用途があるのか、森林環境譲与税に基づく事業主体である行政とのかかわりはどうすればよいのかなどを考える。
年間600億円、使途の4分の1が木材利用
税金とはそうしたものだと思うものの、広く浅く税を徴収することで年間600億円規模にもなることに驚かされる。
しかしながら森林環境税とは何なのか、徴収した森林環境税は森林環境譲与税としてどのように使われているかなど、多くの国民の理解が進んでいない。
毎年度、森林整備をはじめ林野庁等の各種事業で国庫配分された税金が使われているが、これと森林環境税はどのように違うのかもわかりにくい。
森林環境税は今年度から徴収が開始される。一方、森林環境譲与税は地方公共団体金融機構の公庫債権金利変動準備金を活用して19年度から開始しており、これまでの5年間で2000億円を配分、引き続き今年度の森林環境譲与税約600億円のうち50%はこの公庫債権金利変動準備金が活用され、50%がはじめて森林環境税からとなる。
次年度からは全額森林環境税が原資となる。実に前年度までの5年間で2000億円が配分されているわけだが、その効果のほどは多くの国民が実感できているだろうか。
森林環境譲与税の配分比率は年度ごとに見直されており、24年度は市町村が約540億円(90%)、県が60億円(10%)となっている。ただ、すべての都道府県と市町村に配分されることから、市町村が90%を占めていても地方公共団体単体でみると決して配分金額は大きくない。
森林環境税開始以前の23年度までの5年間の森林譲与税活用実績は1500億円強で、使い道は圧倒的に森林整備関係となっている。一方で森林率の低い大都市部では国産材の普及啓発と需要拡大を通じて森林整備等に貢献する事業が取り組まれてきた。
ただ、森林環境譲与税配分当初は、地方公共団体内部に木質材料に関する様々な知見を有した担当者が不在という問題に直面し、具体的な事業化に至らないまま、結果的に地方公共団体の出納関係部署で基金として積み立てるケースが少なくなかった。
それでも22年度以降、活用額が増加しており、23年度は公庫債権金利変動準備金の500億円に対し活用額は537億円と上回った。それまで基金に積み立てられていたものが活用に回った結果といえる。
22年度の森林環境譲与税の使い道(1741市町村、複数回答)は間伐等の森林整備79%、人材育成・担い手確保35%、木材利用・普及啓発52%、基金への全額積み立て10%で、特に木材利用関係は19年度の22%から大幅に増加している。
一方、税の活用に動き出したことで基金への積み立ては19年度の38%から大幅に減少している。22年度の活用額399億円のうち、森林整備234億円、人材育成・担い手確保68億円、木材利用関係97億円で、木材利用材積は約28万㎥だった。
今年度から森林環境譲与税は600億円に増額され、おそらく、その4分の1、約150億円が木材利用関係に活用される可能性がある。森林環境譲与税は全国の市町村に分配すると市町村ごとの事業規模はそれほど大きくないが、市町村が主体となって活用できる税であり、都道府県を含む地方公共団体のなかでも独自性のある事業がすでに取り組まれている。
事業化を企画する人材不足で事業計画が構築できず基金に積み立ててきた地方公共団体もいつまでも先送りするわけにはいかず、事業化に向けた具体的な動きが今年度以降出てくる。
神奈川県川崎市は森林環境譲与税の配分が開始された19年度から基金に組み込まず、精力的に森林環境譲与税の活用に取り組んでおり、22年度は1億6000万円強の譲与額に対し、過半を木材利用関係で使用した。林業等に供する森林がほとんどないことから、保全緑地の樹木地整備に7000万円強を充てたほかは木材利用関係となっている。
22年度は小学校増築(5900万円)、公共施設の木質化1000万円、民間施設の木質化補助320万円、学校長期保全計画推進1100万円、木材利用啓発800万円弱。22年度は事業が実施されなかったが20年度には義務教育施設整備として20年度1億200万円、19、21年度も3700万円が投じられている。
川崎市は19年度に「木材利用促進事業補助制度」を創設し、市民が集う施設等の木質化を働きかけてきた。
同様の補助事業は東京都の場合、多摩産材活用に向けて自己財源で「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」、「木の街並み創出事業」、「中・大規模建築物の木造木質化支援事業」をかねて実施している。多くの地方公共団体は財源の問題でそうした事業を創設することが難しかったが、川崎市のように、森林環境譲与税が創設されたことで具体的な事業を創設することが可能になった。東京都23区のように森林率が低い地方公共団体でも川崎市のように精力的に事業化するところが少なくない。
地域行政との緊密な連携が鍵
森林環境譲与税を財源として木材利用関係の事業を行うのはそれぞれの地方公共団体であり、川崎市のように独自で木材利用促進事業補助制度を創設し、行政が主導して森林環境譲与税を活用した事業を推進していることから、こうしたケースでは行政の担当部局と緊密に接点を確保すること、事業は基本的に入札方式となることから、入札情報をチェックすることが必要だ。
木材利用関係の用途で考えられるのは教育施設の木質化、公共施設の木質リニューアル、什器等民間事務所の木質化、外構木質化、ノベルティグッズなどだが、並行して行政が主導する木育イベント、地域産材活用といった地域密着型の木材利用に関する啓発活動に積極的に協力することが大切と考える。
一方、森林環境譲与税の使途が決まっておらず、現状は基金に積み立てられているケースは多くが木材や木造建築等に対する知見が乏しいことに起因することから、木材利用の主体である工務店等が行政に対し具体的な木材利用方法、木材利用の意義を働きかけていくことが重要だ。
もちろん、単純な随意契約で受注できるものではないが、先行している地方公共団体の事例などは行政側の担当者も情報を取得しており、関心は高いと思う。地域の取引先金融機関等と連携して行政に提案するのも一策だ。
一般建設業と特定建設業で公共工事の許認可が異なるが、地方公共団体単体に配分される森林環境譲与税、特に森林整備ではなく木材利用関係が主たる使途となる場合、その年間事業規模はそれほど大きくない。また、地方公共団体が元請となることから、大概の公共事業は一般建設業の範囲内で対応できると考える。
多数ある非住宅木造建築推進補助事業
森林環境譲与税とは別の話になるが、工務店は国が行う非住宅木造建築物に対する補助事業も積極的に活用することを提案したい。毎年度実施されている林野庁のJAS構造材実証支援事業都市における木材需要の拡大事業」、「外構部等の木質化対策支援事業」は工務店でも十分に活用できる事業だ。
例えば「JAS構造材実証支援事業」は10㎡以上の非住宅木造建築等を対象に、JAS構造材を使用する場合、助成対象階の床面積の計が1000㎡以上、または助成対象階が4階以上の建築物は3000万円を上限に、助成対象階が3階建て以下の場合は1000㎡以下で1500万円、1000㎡以上であれば3000万円を上限に補助が受けられる。
昨年度の助成金額は、機械等級区分構造用製材等、2×4製材、構造用集成材、構造用LVLは使用材積1㎥当たり6万6000円、CLTは使用材積1㎥当たり14万円、構造用合板、構造用パネルは調達費の2分の1が補助される。CLTの立方メートル当たりの調達費が20万円/㎥だったとすると補助上限以内であれば差額の6万円/㎥の負担で済む計算だ。
この補助事業は毎年募集開始後、締め切り前の早い時期に予算上限に達する人気の高い補助事業だ。今年度もまもなく募集が開始される。上記した「都市における木材需要の拡大事業」もほぼ似た補助事業となっている。
また、「外構部等の木質化対策支援事業」は既存建物の外構部、具体的には木材デッキ及び木製塀を補助対象とし、JASもしくはAQ認定を取得した木材防腐防蟻処理事業所で製造された防腐防蟻処理木材を使用した場合、使用量に応じて助成が受けられる。これも人気の高い補助事業で、今年度は5月27~5月31日に事前申込の受付が行われる。
新設住宅、とりわけ工務店が依拠する木造軸組持家は極めて厳しい需要環境下にある。新設住宅が事業の柱であることは変わらないが、今後の成長を考えた時、新設住宅一本で事業継続させることは容易でない。
非住宅木造建築と既存住宅リノベーションを新しい事業の柱として挑戦していくことを提案したい。森林環境譲与税の使途に関しても木材のプロである工務店が積極的に行政にアドバイスすることで、新たな需要開拓への契機としてほしい。
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