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【特集】専門家・団体リーダーに聞く 「あり方検討会&たたき台」の評価と脱炭素施策~公益財団法人自然エネルギー財団

2030年の目標は「新築の全ての住宅・建築物でZEH・ZEBを実現」に

省エネ基準適合義務化は23年度当初から施行を。少なくとも25年にはZEH、ZEBレベルの水準が必要

西田裕子氏(公益財団法人自然エネルギー財団 シニアマネージャー)

 
新建ハウジングでは、3省合同で開催されている「あり方検討会」(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会)をうけてキーマンへの公開取材を続けている。このほど、専門家やこれまで住宅の省エネ・高性能化に取り組んできた団体のリーダーに、検討会の第3回で国交省が提示した「たたき台」の評価・感想や、今後の住宅分野における脱炭素施策への私見を寄稿いただき、検討会の竹内昌義委員に活用いただくとともに、新建ハウジングDIGITALで全文を公開する。ここでは公益財団法人自然エネルギー財団シニアマネージャーの西田裕子氏の寄稿を紹介する。

 

1.あり方検討会・「たたき台」について

1)2030・50年の新目標に対して住宅・建築物でさらに対策を強化しなければならないというメッセージの欠如
第一に、検討会において、政府のほうから、2030年までにGHGs(温室効果ガス)排出を46%削減するという目標を実現するために、現在の対策をさらに強化しなければならないことが示されておりません。

国交省からは、従来のGHGs排出26%削減という、2030年目標を達成する目標として示されていた「2030年で新築戸建住宅の平均でZEH」という目標が示されているだけで、それを今後、強化、前倒しするという具体的なメッセージ、データはありません。

さらなる強化の必要性が示されない中での検討会(実際は、委員や関係団体が意見を述べるだけの一方的な会で、議論はありません)では、将来不適格となるに違いないエネルギー性能の低い住宅・建築物が日々生産されて将来世代の重荷を増大させているという危機感、30年までの目標をいち早く達成するといったスピード感の欠如した意見が出されています。
結果として、慎重論が強調された「たたき台」になりました。

2)現行の2030年目標の強化の必要性
「新築の住宅・建築物の平均でZEH・ZEBを実現」という目標は、意味が不明確で、新築のどのくらいがZEH・ZEBを達成するのか、示されていません。一部はZEH・ZEBに達しないものもあるということを表現しているのかと思います。
新たに46%という目標強化がされたからには、目標は、まず最初に強化されるべきで、「新築の全ての住宅・建築物においてZEH・ZEBを実現」にするべきと考えます。
また、現在の省エネ基準では算入されていない家電や事務機などのコンセント電力も含めた真のネットゼロエネルギー住宅・建築物の実現を追求、目標としていくべきと考えます。

3)省エネ基準適合義務化についてー一刻も早く適合義務化、25年・30年の強化スケジュールを周知
一刻でも早く適合義務化を進めることが重要です。
すでに、省エネ基準の達成率も2019年度で小規模住宅でも87%まで高まっており、遅くとも23年度の年度当初から施行が可能となるよう、準備をすすめるべきです。
むしろ小規模で達成率が高いこともあり、小規模住宅において適合義務化を遅らせる理由はありません。個人が建築主となるからこそ、悪質な住宅を建ててしまう弊害から消費者を保護する意味も含めて早急に実施されるべきです。

義務化の水準は、スピードを重視することから、現行基準でも致し方ないと思います。しかし、少なくとも25年にはZEH・ZEBレベルの水準が必要です。
したがって、23年に現行基準で適合義務化する際に、25年のZEH・ZEBレベルへの強化予定を周知して行うことが不可欠です。この周知によって、多くの建築主が次の基準改正、また30年目標に照準を合わせて対応することができます。

「過度な負担」かどうかについては、将来的に省エネ基準にも満たない性能の悪い住宅の価値が大きく下がることが明確であるにもかかわらず、それを認識させないことは消費者の大きな不利益となるという視点も強調されるべきです。

4)さらなる誘導措置―省エネ適合義務基準の強化のレベルとスケジュール、最終目標を示すことこそ有効な誘導
上記のように省エネ適合義務基準が、2030年目標までに、25年度、30年度と強化されることを示す(具体的には25年度でZEH基準、30年度でコンセント電力も含めた基準)ことが何よりの誘導策となります。
トップランナー制度の拡充、強化は重要ですが、スピード感を持って進めることが必要です。
ただし、政府の財政状況等を考えると、補助金を大規模交付していくことは現実的ではありません。一方で、グッズバッズ課税など、税収が減らない方向で税制措置をとっていくこと、ファイナンス制度の充実も重要です。

5)省エネ性能表示―一刻も早く売買・賃貸時における義務化が必要
売買、賃貸の機会をとらえた性能表示制度の義務化は直ちに実施すべきで、ここもスピード感が必要です。
省エネ基準の適合義務化よりは先だって実施されるべきです。
建物建築時の性能情報が得られない建築については、開口部の性能や暖房・給湯設備のチェックなど簡易な方法で評価可能であり、現行省エネ基準レベル以下をさらに詳細に示す必要はないと思います。
したがって評価上の技術的課題は大きくなく、即刻実施に向けて行動すべきです。

6)既存ストック対策―増改築時の適合義務化に向けて準備、自治体での対策実施への全面協力を
2025年には増改築時の適合義務化を目指し準備をしていく必要があります。
公共建築は当然先行すべきであり、30年までのポートフォリオ全体のゼロエミッション化の計画を各公共団体に策定を義務付けるべきと考えます。また、自治体の先行施策を奨励、全面的に支援すべきです。
特に既存対策については、今後集中的に対策を検討する体制が必要です。

7)太陽光発電設置義務について
太陽光発電の導入の必要性だけでなく、下記で述べるような将来的な住宅・建築物の姿の実現を目指して、制度設計が必要です。必ずしも大容量PVをすぐに導入というのではなく少しずつでも導入していくこと、また、新築時には将来的な導入を見越した「レディ建築」を求めることが重要となっています。

様々な検討が必要ななかで、今回、政府側からはほとんど資料も示されることなく、いきなり義務化に対する意見を求めたことは問題で、制度設計で容易に解決できる問題が導入可否の根拠とされたり、義務化への感情的な意見表明がでるなど、大きな課題を残しました。

近い将来には義務化導入が必須であり、その準備を開始すべきと思います。また、ZEH・ZEBの一環として進めていくことも重要で、少なくとも2030年までには義務化されていることが必要です。
今するべきこととしては、まず、全ての新築公共住宅・建築はZEH・ZEB化を進めることです。そのために、官庁営繕の設計標準、技術基準を徹底的に再検討し、ZEH・ZEBが標準となるように改定する必要があります。
すべての改修、改築時で、できる限りZEH・ZEB化、再エネ導入をするべく、検討義務を課す必要があります。掛り増し費用については、費用増がなるべく少なくなるような検討をしつつ、財政措置を講じていく必要があります。

安心して消費者や居住者がPV導入ができるよう、検査体制を充実していくことも重要です。ZEH・ZEB化の一環として進めていくことの意義がここにあります。

>>>次ページ「2.住宅の断熱・省エネの目標案:2030年に新築全てでZEH・ZEBを」

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