「性能向上リノベ」が増えている。だが、いざ始めるとなると、肝心の施主とどう出会い、不動産売買が絡む場面でどう立ち回り、どの性能をどれだけ上げ、金額も含め施主にどう理解してもらうか、補助金やローン控除は――と次々に疑問が湧いてくる。そこで、「性能向上リノベデザインアワード2022」の優秀賞に輝いた増木工務店(埼玉県新座市)の事例をもとに性能向上リノベのポイントを学びたい。同社・技術営業の山口愛莉沙さんに話を聞いた。
2021年の夏、増木工務店に築43年の古家を売却したいとの相談が舞い込んだ。話を聞く限りは更地にして売却or古家付きで安く売却のどちらかと思われたが、査定と解体の見積作成のために現地を訪れたところ、建物は想像以上にきれいな状態。解体更地で売却した場合と、建物を残して中古住宅として売却した場合の2通りで査定をかけたところ、後者の方が300万円ほど多く売主の手元に残ることが判明したため、「中古住宅+リノベ」を買主探しから進めることにした。
幸いにもすぐに買主が見つかり、売買契約を締結。80代の伯父+70代の母と子(娘40代、息子40代)の計4人が一緒に暮らすための“二世帯同居版性能向上リノベ”が始まった。
資金計画の工夫
中古住宅購入+性能向上リノベに際して、最初の難所がお金の話となる。総額は3750万円。伯父が自己資金から1500万円負担すると申し出、残りの2250万円を娘がローンを組み、伯父を除く3人でローン分を負担することで話が進んだ。「毎月の返済額を算出し、これを3人で割ると1人あたり約1万8000 円の家賃で暮らせることや、現在暮らすマンションよりもランニングコストが抑えられること、暑い寒い・カビ・老朽化・修繕費用などマンションに感じている不安・不満の多くが解消できることをシミュレーションを交えて丁寧かつ慎重に説明して納得していただいた」。
また、住宅ローン控除を受けるための条件や中古住宅購入+リノベで使える補助金を一通り調べ、お金に関するデメリットが生じないよう細心の注意を払った。
性能向上の工夫
リノベ計画にあたりもっとも重視したのが「介護」のこと。80代の伯父の在宅介護・訪問看護を見据え、伯父の居住スペースと水回りを1階に集約し、2階を3人の居住スペースとした。断熱性能は同社の新築の標準仕様であるHEAT20 G2(*現在の新築標準はG3)、耐震性能は耐震等級3相当・上部構造評点1.55に。「今、断熱・耐震性能をしっかり上げておけば、築 43年の家でも数十年先まで快適に住み続けることができるうえ、万が一手放すことになっても資産価値を保てる。リノベだからと性能を落とす選択肢は考えなかった」と山口さん。一方、ウッドショックと資材高騰の影響をもろに受け、当初計画していた全館空調が資金的に難しくなったため、夏冬1台ずつのルームエアコンで快適に暮らす代案を提示。結果、温熱環境に対する満足度はかなり高いという。
「住み心地を聞くと、冬の暖かさがすごい!と口を揃えます。階段下に設置したエアコンの暖気が向かいの浴室・脱衣室に届くため、特に高齢の伯父さんは暖かい脱衣室でゆっくりと体を拭いたり、服を着られることに大きな価値と喜びを感じているようです」。
売主の住まいへの想いを何十回と聞いていた山口さんは、それを形に残せないかと考えた。そこで、古家の手すり子や建具の窓を磨き直して再利用し、荒れていた庭を整えて売主親子の思い出が詰まったブドウの木を残した。「想いが形になれば、建物を引き継いだ側も大切に暮らそうと思えるため、それを伝えてつなぐことも工務店がリノベを行う大きな意義になってくる」と話す。
中古・リノベの難しさ
山口さんは中古住宅売買・リノベを行う際の注意点として、①残置物の片付け、②インフィル解体後の検討期間、③不動産売買・相続に関する手続き―の3つを挙げる。
②は1カ月の検討期間を設定。耐震診断と同時に躯体にシロアリや雨水の被害がないか等を施工する大工を交えて念入りにチェックし、計画の妥当性を確認した。この期間を設けるかどうかでその後の工事の進捗度合いが大きく変わってくるという。
③は難易度が高い分野だが、今回同社は、リノベを行った中古住宅の売買に加え、買主がそれまで暮らしていたマンション2戸の売却、さらには買主一家がこの先も穏やかに暮らせるよう伯父の「公正証書遺言作成」と「任意後見手続き」までサポートした。
「建物を扱う以上、相続の問題が必ずついてくるため、ご家族の幸せな未来のために、建物をつくって終わりではなく、その先があることを伝えるのも工務店の大事な役割。売買・相続に関する煩雑な事務手続きも、私たちが間に入ることでスムーズに行くことも。今後、相続の相談先としても工務店の存在意義はもっと高まると思います」。
(sponsored by 性能向上リノベの会)
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