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【特集】専門家・団体リーダーに聞く 「あり方検討会&たたき台」の評価と脱炭素施策~PHJ

「今を生きる私達の財産権よりも次世代の人権が尊重されるべき」という気候変動対策の基本認識を

2023年4月にG2義務化、年間冷暖房需要で足切り基準も

森みわ氏(一般社団法人パッシブハウス・ジャパン代表理事)

 
新建ハウジングでは、3省合同で開催されている「あり方検討会」(脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会)をうけてキーマンへの公開取材を続けている。このほど、専門家やこれまで住宅の省エネ・高性能化に取り組んできた団体のリーダーに、検討会の第3回で国交省が提示した「たたき台」の評価・感想や、今後の住宅分野における脱炭素施策への私見を寄稿いただき、検討会の竹内昌義委員に活用いただくとともに、新建ハウジングDIGITALで全文を公開する。
ここでは一般社団法人パッシブハウス・ジャパン代表理事・森みわ氏の寄稿を紹介する。

 

1.あり方検討会・「たたき台」について:

1)“出来ない言い訳や逃げ道”を塞ぐ大枠の合意を先行するべき
今を生きる我々の利便性や経済的利益を最優先にした社会システムが回り続けることを日本の行政が容認し、省エネ推進と脱化石燃料依存に真摯に取り組んでこなかったことで現在の八方ふさがり状態に直面していることを直視する必要性がある。

従来の物事の優先順位をリセットし既成概念を壊していかなければ時間的に全く間に合わないのだが、そのような焦りが一切感じ取れない叩き台に見受けられた。“出来ない言い訳や逃げ道”を塞ぐ大枠の合意を先行するべきではないか?
例えば、特定の業界への利益誘導となる政策は禁止し、公共事業では健全な価格競争が起こるよう入札プロセスの根本的な見直しを。原子力発電所の再稼働や新規建設が、太陽光発電推進政策のバーターとならぬよう合意が必要である。

2)「今を生きる私達の財産権よりも次世代の人権が尊重されるべき」という基本認識を理解すべき
省エネ義務化措置を牽制する意見として「財産権」という表現が見られるが、今を生きる我々の「財産権」よりも未来を生きる次世代の「人権」が尊重されるべきという、気候変動対策の根底に対する認識が欠落しているように見受けられた。
日本弁護士協会も、公害や環境問題が重大な人権問題であるとの立場を取り、“地球温暖化の問題は21世紀に生きる世代の生命、健康に深刻な影響を与えるものであり、その対策の遅れは将来に大きな禍根(かこん)を残すことになる”との声明を出している。

3)不完全な省エネの物差しは改め国際化せよ
“基準の簡素化”といった提案も見られたが、現状でも精度の悪い不完全な物差しをこれ以上どうやって簡易化するのかという驚きと共に、本来求められるのは物差しの国際化であると考える。
現に日本の一次エネルギー換算係数には、原産地から日本の港までのエネルギー輸送等に伴う消費分が計上されておらず、国際社会で用いられるその値とは似て非なるものである。
物差しによる不正行為は原子力発電の扱いにも当てはまり、原子力発電を再生可能エネルギーとして分類するような暴挙は今後あってはならない。

4)ネガワット(省エネ)1kWhとポジワット(創エネ)1kWhは対等であると認識すべし
太陽光発電に注目が集まっている印象だが、ネガワット(省エネ)1kWhとポジワット(創エネ)1kWhは対等であるという柔軟かつ合理的な解釈に基づき、太陽光発電だけが独り歩きするようなバランスに欠いた政策とならないような配慮が求められる。
特に冬の日没後の暖房需要に対しては、太陽光による創エネよりも躯体強化やパッシブデザインによる省エネの方が適していることを、より多くの指導者が認識することが重要と考える。

 

2.住宅の断熱・省エネの目標案:2023年4月にG2義務化、既存の不完全な物差しの改善を

1)UA値は厚生労働省マターである
HEAT20の指標は、躯体の魔法瓶性能に関する指針であるため、快適かつ健康な暮らしを保証するもので、例えば厚生労働省が義務化するにふさわしい物差しであると言えるが、省エネの物差しとしては不足がある。
いずれにせよ、具体的なタイムテーブルを考えるなら、遅くとも2年後の2023年4月にはG2義務化に加え、単位床面積当たりの年間冷暖房需要(kWh/m2)で足切り基準を設けるのが理想と言える。

2)ありとあらゆる手立てが求められるからこそ既存の不完全な物差しは改めるべき
エネルギーの無駄な消費は一体どこで生じているのかしらみつぶしに調べていかなければならない状況のなか、これまでの物差しでは大雑把過ぎて測れない、もしくは評価対象から外れている事象が複数列挙できる。

例えば、躯体のヒートブリッジにまつわる熱損失、地盤を介した基礎からの熱損失、換気の施工状況を踏まえた実効熱損失等は再評価され、現状よりも精度を高めたものをUA値に反映させるべきであり、厳密な日射取得量を加味した冷暖房エネルギー消費量の評価も、当然新しい物差しとして確立されるべきである。

LED化や世帯人数の減少、家電・設備の省エネ化を踏まえて内部発熱量も大幅な見直しが必要である。
気密の伴わない住宅で三種換気が24時間換気として機能していない実態も、コロナ禍を踏まえて再評価すべきであり、それに関連して竣工時の気密測定や換気の風量調整の義務付けも検討の余地があるのではないか。

 

3.住宅の省エネ・脱炭素化について:最終到達点は実測での削減達成(結果)であり不完全な物差しによる削減達成(やってる感)ではない

建築の一次エネルギー全体の削減を視野に入れるなら、上述の一次エネルギー変換係数の国際化に加え、給湯器や冷暖房器具の機器効率ばかりクローズアップせず、暖房便座、郊外住宅の合併浄化槽、寒冷地住宅の凍結防止帯など、これまで見逃されてきた消費電力にもフォーカスして徹底的に無駄を排除していく取り組みが必要不可欠であると考える。
※外皮性能が向上した暁には冬期の給湯負荷の削減が見られることも考慮。

未来を生きる私達の子供たちや孫たちの人権、すなわち「精神的に豊かで安全・安心な暮らし」の保証は私達の義務であり、それに真摯に向き合うことが、私達自身が今既に感じている「物質的に豊かだが不安定で心休まらない暮らし」から脱却するための唯一の出口なのではと感じている。

 

一般社団法人パッシブハウス・ジャパン
独パッシブハウス研究所の開発する評価ソフト、「PHPP」を用いたパッシブデザイン手法及びパッシブハウスに関する普及啓もう活動を目的に2010年に発足。日本国内向けに「建もの燃費ナビ」を開発。主催する「省エネ建築診断士セミナー」の累計受講者数は5000人に迫る。賛助会員は意識の高い地場工務店や設計事務所がメインだが、近年はハウスメーカー・大手建材メーカーに対する製品開発コンサルティングも行う。会員数:234社、施工実績棟数 1500棟/年(工務店分のみ)

 

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