2022年は住宅業界にとってどんな1年になるのか―。元ファンドマネージャーで、建築・建材業界に関与してきた筆者が、新設住宅着工戸数、上場企業の決算を横断的に分析し、2022年の業界動向のポイントについて考察する。2021年を踏まえて2022年、最初に工務店経営者が考えるべきことは何か。各種統計や大手決算などのファクトから2021年を振り返り、その後2022年のポイントを整理する。【クラフトバンク総研 髙木健次】
まず2021年を振り返る
2021年の年始に、筆者は「2021年の建設業界は増益企業の増加と廃業・倒産の増加が同時に起こる”二極化”の1年」と予測した。2021年の新設住宅着工戸数は8ヶ月連続で対前年同月比プラスとなり、コロナ禍からの回復傾向にある。
2021年の上場企業の決算を分析すると、需要回復を受け、「増収増益」「過去最高益」といった言葉が決算報告に多く登場している。大手5社はすべて増益を果たしている。一方、帝国データバンクが発表した「コロナ倒産」(コロナ禍の影響を受けた倒産)の業種別の件数を見ると建設業は飲食業に次ぐ2位。廃業件数も建設業は2020年から2021年にかけ6%増加している。「全体の需要が回復しながら市場から退場する企業が増えていく」経営の「二極化」が進んでいることは間違いない。
2021年4月ごろから表面化した「ウッドショック」、秋ごろからのトイレなどの住設の不足、職人不足など、「供給」の問題も経営に大きく影響した。
①需要
新設住宅着工戸数(全国、2021年10月)
2021年はコロナ禍の影響を受ける前の2019年並みの水準に回復
全体では回復傾向にあるが、都道府県別に見ると青森、島根、高知など、回復に遅れが生じている地域もある。新築住宅市場は若年人口の増減に影響を受けるため、若者の流出(住宅取得者と若手職人の減)が進む地域では市場は加速度的に縮小する。需要回復の恩恵が自社の展開エリアにも及ぶかは冷静に見極めが必要だ。「地方企業の関東支店立ち上げ」「買収によるエリアの拡大」など先行してエリア戦略を見直す上場企業も多い。
②供給
鋼材など、木材以外の資材価格も上昇。ガラス、接着剤、塩ビ、壁紙、配管などの資材メーカーも続々と値上げを発表
資材価格の上昇に加え、給湯器、トイレなどの住設の品薄も問題になった。給湯器大手のノーリツが納期遅延を公表。TOTOやLIXILが生産拠点であるベトナムで新型コロナウイルス感染拡大の影響で調達に支障をきたした。ウッドショックに代表される一連の資材高騰や品薄はグローバル経済の変化に起因しており、工務店経営にもグローバルな視点が求められるようになっている。
③住宅大手5社の決算
大手5社は第2四半期全社増益で、コロナ禍の影響から回復傾向。

出所:大手各社決算資料の戸建て住宅事業のみ比較
ウッドショック等の資材価格の高騰の影響はあるものの、グローバルな調達網の活用と販売単価のアップで対処している企業が多い。商談プロセスのデジタル化に対応した企業ほど需要増を早く取り込む傾向にある。
2022年はどうなる?
2021年の振り返りを踏まえた2022年のポイントを図にまとめたのが上記の図だ。2022年は「さらなる二極化と世代交代」がキーワードとなる。「二極化」の引き金はどこにあるのか。受注、完工、利益、資金、経営の5つの視点で整理すると以下の通りとなる。
受注:回復傾向で増加する。需要を取り込めずに廃業する工務店も
完工:住設の納期遅延等は引き続き不透明。職人の確保が課題(職人不足)
利益:円安・原油高・物流コスト増の影響で、当面資材の値下がりは期待できず
資金:コロナ禍で増加した借入金の元本返済開始
経営:経営環境の急速な変化と法改正⇒世代交代が進む
■受注
筆者のもとにも「同業の廃業で急遽受注が入った」「後継者難の会社を買収することで人材獲得につながるなら検討したい」という企業経営者の声が複数届いているが、いかに廃業が増える中で生じる需要や人材を自社に取り込むかが経営上、重要になってくる。
■完工
主要建材の品不足に関しては、新建ハウジングDIGITALでも報じた通り、LIXILは段階的に供給体制は回復に向かっていると発表している。一方、TOTOは12月に再度ウォシュレット関連製品の納期遅延を発表。世界的な半導体の不足に加え、北米の災害など引き続き住設資材の確保は不透明な状況となっている。
一方、東京商工リサーチによれば中小企業の1320社に1社がコロナ禍を受けて廃業を検討している。需要が回復しても「発注できる協力会社が不足して、受注しても完工できない」「工期が遅れて資金繰りに影響している」「協力会社の体制を見直したい」という声が工事会社紹介サービスを展開する筆者の所属企業には多く寄せられている。職人不足はより構造的で深刻な問題だ。
地方を中心に職人は既に貴重な経営資源となっている。2021年は店舗、事務所などの需要も回復しているため、それらの工事に従事する職人が住宅の工事を請けない事例も増えている。2022年はまず3月の繁忙期に向け、職人に投資し、職人を確保できるかが大きな分かれ目になる。
■利益
円安・原油高・物流コスト増に加え、最低賃金も上昇し続けている。コストに関しては「コロナ前に戻る」可能性はかなり低いと言わざるを得ない。「紙と電話」の管理体制ではコストの分析も難しい。2022年はデジタル化による原価管理の精度アップや効率化によるコスト削減、可能な範囲での販売価格への転嫁が大きなポイントとなる。
■資金
政府がコロナ禍における緊急の資金繰り対策として2020年に導入した民間金融機関による無利子無担保融資(通称「ゼロゼロ融資」)の執行件数は全国全業種で87万件に及ぶ(2021年5月政府公表)。 その元本返済の過半が2021~22年から始まり、資金繰りに大きく影響する「利益確保が難しい中で返済原資を確保しなくてはならない」状況に、多くの工務店が置かれている。
中小企業診断士などの複数の専門家に確認したところ、「返済再開にあたって金融機関の協力が得られる企業と、得られない企業の二極化が進んでいる」「後継者不在率が他産業に比して高い建設業において、後継者の有無を金融機関は見ている」とのことであった。金融機関の協力を得るための戦略策定や助成金活用においては中小企業診断士などの専門家との連携も重要だ。
■世代交代
地方からの人口流出、国際的な資材の値上がり、職人不足、廃業の増加など、工務店経営を取り巻く経営環境が大きく変化している。2023年のインボイス制度、2024年の時間外労働の上限規制の適用など建設業に関係する法改正も控えている。
経営者は育った時代の影響を受ける。人口が増え、売上主義で突き進んでも経営できた時代と、人口が減り、資材の値上がりや法改正にも対処しなければならない時代になる。そうなると、これまでの時代と経営者に求められる能力も異なってくる。「これまでの経験が役に立たない」という経営者の声も聞こえる中、「廃業支援」を打ち出す商工会もある。建設業のM&A件数も増加している(2021年M&A総合研究所調べ)。経営の世代交代も2022年の大きなポイントになってくるだろう。

クラフトバンク株式会社/クラフトバンク総研所長。認定事業再生士(CTP)。京都大学在学中に家業(塗装店)の倒産を経験したことをきっかけに事業再生の世界へ。投資ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・建材業中心に多数の中堅・中小企業の事業再生・承継に従事。2019年より現職。新建ハウジングのほか、朝日新聞運営メディア等で経営者向けの記事を連載。
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